シンゴ旅日記インド編(101)ワテは運転手(新聞係)の巻

ワテは運転手でんねん。ご主人は日本人の社長さんですわ。

その社長さんが来られたばっかの時に言わはったことがありますわ。

『私が(会社で)仕事をしている時は、あなたは仕事(運転)をしていません。あなたが仕事をしている時は、私は仕事ができません。』

そんなん言われても困りましたで、運転手やもん、しょうがおませんがな。

けどな、今は違いまっせ。その時からスタッフが増えましたんや。

今は事務所の二階の天井の低い部屋で、社長さんと経理とワテの三人が座っていますんや。

前は、ちゅうか、日本人の若いお二人さんが来る前は、ワテは、朝、社長さんを乗っけて会社に行きますやろ、それから先、これといった仕事がおませんでしたんや。

社長さんの送り迎えの他は、経理が銀行や役所に行くときに車を運転しまんのやけど、後は社長さんとワテの昼食を買いに行く時くらいしか用がおませんでしたんや。

そんで、会社に行って、ワテにとっては針の山に座るような朝の打合せが終わると、ワテは会社でとってる新聞に目を通すのが日課みたいなもんでしたんや。

その新聞読みが、今では仕事のひとつになりましたわ。

社長さんがワテの仕事にしてしもうたんですわ。

『あなたは事務所では新聞を読むことが仕事です。そして大きな出来事が載っていたら、私に教えてください』って言わはったんでっせ。

そんなん、社長さん、ご自分ですることやないのかなあ。

それに、今では新聞を読むことの他に、事務所にいるときは経理のファイリングなんかもワテの仕事になってまんねん。

新聞を読む仕事は結構、社長さんに報告事項があるんでっせ。

プネのダムの水位が下がってもうたとか、Kingfisherが借金で首が回らんとか、前の日に社長さんが通ったムンバイ――プネの高速道路で5台の車が衝突して5人死にはったとか、毎日報告する出来事がありまんのや。

ワテな、最初のページはあんまり、ちゅうか、まったく読まんのですわ。

ホンマのこと言うと政治や経済ってようわからんのですわ。

社長さんは、地方の州の選挙結果とか、中央の党と地方がどうゆう関係にあるとか、今年の予算はどないやって聞きはりますけど、ワテはあんまり関心がおませんのや、ようわからんのですわ。

ワテが最近報告して社長さんが関心しはったんは罰金の記事ですわ。

プネ市がごみのポイ捨てなんかに罰金の支払いを取り入れたんですわ。

社長さんな、プネもシンガポール並みに、綺麗になるんやろかって言うてはりましたで。

でも、そんなん、無理ですわ。みんな守りませんで。

オートバイのヘルメットかて、一旦、かぶらなアカンことになったんやけど、すぐに守らんようになりましたがな。これって、みんなが強いんやろか、それとも市がエエかげんなんやろか。

そういえばこんなことがありましたわ。あれは社長さんが来はった二年前やろか。

社長さんと営業マンを乗せて、ワテがコラプールから運転してた帰りのことですわ。

運転するワテの横に営業マンが座ってましたわ。

すっかり夜も更けてましてね、もうすぐプネに入るかなちゅうとこで、営業マンが車の窓を開けたと思ったら、飲みかけやった二リットルのペットボトルを窓から投げ捨てたんですわ。

社長さん、びっくりしはって、営業マンを怒りましたんや。

『なんてことをするのですか?窓からペットボトルを投げ捨てるなんて。誰が掃除をするのですか?それに人がいたら危ないではないですか。』

営業マンな、キョトンとしてましたで、社長さんが何を怒ってはるのか意味が分からんみたいでしたわ。これからは、そんなことしたら、罰金になるんでっせ。わかっとるのかなぁ、あの営業マン。

朝の打合せで、これからは罰金払わなアカンのやでって言ったろかしら。

社長さんな、この前ラジャスタン州のジャイプールへの出張から帰って来はって、教えてくれましたで、ジャイプールではオートバイの運転手も後ろに座る人もヘルメットの着用が義務付けられたんやて。

久しぶりにジャイプールに行って町の景色を眺めていたら、何か違うんで、同行したメンテ担当に何か違わへんかって聞いたら、オートバイの運転手も同乗者もヘルメットをかぶることになったんやちゅうことですわ。ちゃんと守っとる町もあるんやなあ。なんでやろ、人の違いやろか、市の姿勢やろか。

話変わりまんのやけど、ワテは家ではパソコンやってますんや、その話を社長さんにしたら、ワテ用のラップトップを与えられて、Eメールアドレスも作ってもらえたんでっせ。

ワテにも事務所におるときは事務所の仕事をせいちゅうことですわ。

けどな、このラップトップな、ホンマはワテ専用に買うてもろたんと違いますんや。

この前、辞めはった顧問さんのんを、返してもろたんで、社長さんがワテに使えちゅうて言うたんですわ。そんで、最初にワテが打ったメールは、社長さんの出張のフライトを旅行代理店に申し込むことやってんです。フライトの予約は経理が担当するのやけど、経理はその日休んでおって、おらんかったんですわ。ワテな、ちゃんと社長さんにも代理店へのメールのコピーを落としましたがな。

そうしたら、社長さんが、それを読まはってな『Checkのつづりが違っていますよ。Cheakになってますよ。これがCheekやったら、ほっぺたのことですよ。Cheek danceって知ってますか』って言わはりましたんや。Cheek danceって日本語英語でっせ。それに朝から変なこと言わはる社長さんでんねん。ワテな、おかしいなあ、Checkはそんなつづりやったかなぁ、社長さんが間違っているのやないかって思ってましたんや。

そしたらな、次に社長さんから書類を渡されて、サービス売上の源泉税の支払い確認を税務署のネットから見てくれって言われましたんや。ホンマは、これも経理の仕事でんがな。

ラップトップもろても、あんまりいいことないなって、ちょびっと思いましたわ。

そんで、その、ネットからの確認を、どうやってすればエエのか知らんかったんで、休んでる経理に電話して、うちの会社のパスワードなんかを聞いて教えてもろたんですわ。

そのネットからの税金の支払確認は存外簡単なものでしたわ。

その時ですわ、書類にcheck ちゅう文字があったんで、社長さんに、合ってますよ、Checkちゅう単語のつづりは社長さんが言わはったんが正しいですよって報告したんですわ。

社長さん、そうやろ、私が辞書そのものや、これからは歩く辞書って読んでくれって言って、自慢顔してはりましたわ。

ワテな、英語を話すのは事務所で、一番に上手(うま)いんやと思うけど、書くのは苦手なんですわ。

インドの学校は、英語で授業する学校と、その州の言葉で授業する学校がありますんや。

ワテでっか、そりゃ、もちろん、英語授業学校ですがな。

ワテは、両親がチェンナイ生まれのクリスチャンで、家の中では英語使ってましたやろ、それに学校も教会系やったさかい、英語は問題ありませんのや。

経理でっか、彼はマラティー語授業の学校やったから、英語の授業は小学校の五年生からあったそうでっせ。

そやけど、ワテな書くことは苦手でんねん。

この前も、社長さんが毎朝提出する運転記録を見ながら『これはamですかpmですか、はっきり分るように書いてください』って言われたことがありましたわ。

その日は、まだまだ、事務所のお仕事がありましたで、経理が休んだからでっせ。

社長さんな、ちょっと銀行からのメールを転送するんでチェックしてくれって言わはったんでっせ。

またチェックでっせ。社長さん、チェックちゅう言葉好きなんやね。

何かと思うたら、海外からの入金確認連絡ですわ。

社長さんな、これを夕べ銀行からメールで受け取ったんやて。

うちの会社な、本社や国内のお客さんからの送金は時々あるけど、海外の他の会社からの入金はまずありませんのや。

社長さんが言わはることには、そのメールを読むと、バーレンから1万ドル以上の入金がうちの会社があるけど、その入金目的のコードは何やて書いてあるらしいちゅうんでっせ。

そんで、銀行の担当者に、そんな入金は無いけど、何かの間違いや無いかって聞いてくれって言わはったんですわ。いつもやったら、これも経理の仕事でんがな、明らかに。

けど、その日は、経理が休んでおったさかい、ワテがせなアカンかったんですわ。

そりゃ、ワテかて、うちの銀行の担当者の名前くらい知ってまんがな。

そんで、社長さんが転送してくれはったメールを、よう読むと、入金する会社の名前が、うちの会社の名前とよう似てるけど、まったく別の会社ちゅうことがわかったんですわ。

社長さんにそれを言うと、『そうですか、そうですか』ちゅうて、もう一回ご自分でメールを読んで確認してはりましたわ。

そんで、ワテな、銀行に電話して、銀行の担当者に間違ってまっせて、伝えたんですわ。

そうしたら、しばらくして、社長さんのメールに銀行から申し訳ないちゅうメールが入ったらしいですわ。

社長さんな、こんな簡単な間違いをインドの銀行はするんやなあって感心ちゅうか、呆れてはりましたわ。そして、入金するのはうちの会社ですって嘘つけばよかったかなぁて言ってはりましたわ。

社長さんな、これで、銀行にさらに不信感持ちはったみたいですねん。

ちゅうのは、何ヶ月前にな、ニセ小切手の事件があったんですわ。

これな、おかしな話やけど、経理が展示会への展示機の輸送費用を、小切手でチェンナイの業者にクーリエで送ったんですわ。チェンナイはタミールナド州でっせ。

そうしたら、隣のケララ州の銀行で小切手の金額に一本余分に1ちゅう数字が足されて引き出されてしまったんですわ。何万ルピーやったかが十何万ルピーかになって落とされてしもうたんですわ。

銀行な、5千ルピー(7500円)以上の入出金があると、社長さんのパソコンにAlertちゅうて連絡がきまんのや。

そんで、社長さんは、それをそのまんま経理に転送してますんや。

すると経理は社長さんがエクセルで作った残高表に記入して銀行残高を確認してますんや。

けど、入出金連絡が来ても、それは金額と小切手番号だけで、どこに支払ったかの明細は銀行から来ぉへんから、それがブラインドスポットちゅうか、盲点でしたんやな。

経理な、いちいち、その引き落とされた金額がどこへの支払いかCheckしませんのや。

そんで、その事件が起きてから、社長さんな、経理にCheck(小切手)を発行したら、エクセルにすぐに記入しなさい、そして銀行から出金連絡があったら、金額をCheckして色をつけなさい。そうすれば、CheckがCheckできるやろって、洒落をいいながら指示してはりましたで。

それで、そのニセ小切手でんがな、これな、何で偽造されたかわかったかちゅうと、そうでんがな、本来の小切手の受取人が約束の日が過ぎて、やっとう待ってても、小切手が届かんちゅうで営業に電話してきましたんや。

クーリエで送ったんで、クーリエの会社に支払い先の業者に届けたかどうか確認しましたんやが、プネからチェンナイへはまとめて送っているんで、一件、一件の確認は取ってないちゅうんでっせ。

それにクーリエは小切手の金額の保証はせんちゅうものらしいですわ。

そんで、社長さんな、経理に銀行に文句言えー、その偽の小切手を取り寄せぇーちゅうて大騒ぎですわ。

そして取り寄せた偽の小切手は、元の金額やサインなんかを薬品できれいに消されて書き直されていましたわ。

社長さんの魚の骨のようなあのサインも、誰が見てもわかる違った魚の骨になってましたわ。

ホンマにあるんでんな、ニセ小切手なんて。簡単にできるもんなんですな。

新聞には、ようこの類の事件が載っておるやけど、まさか、うちの会社が被害にあうとは思ってもいませんでしたわ。

そんで、続きがありますんや、ちょっとしてな、銀行のお客様サービス係が、何にも知らんと、挨拶に来たそうですわ。

そんで、社長さんが対応して、お客様サービス係やったら、何とかニセ小切手の問題を解決して、責任取ってお金を返してくれって言わはったそうですわ。聞いた話やけどね。

それからですわ。社長さんは経理が銀行に行くたんびに、このニセ小切手の解決はどうなっておるんや、確認して来いって言わはるんです。

そんで、昨日もワテが経理と銀行へ行く前に同じことを言わはったんでっせ。

やけども、銀行は、毎回おんなじの、ちょっと待ってちゅう返事ですわ。

ええですな、銀行は、受取小切手は、すぐ入金してくれんし、送金する時には、あの書類出せ、この書類が足らんちゅうて、すぐにやってくれへんのに、問題が起こると、ちょっと待ってくれ、そんで、自分の責任やと分るとかんにんのメール一発で済ませますんや。

ワテかて、失敗したら、かんにんの一発で済すませたいわ。

銀行さん、かんにんで済むんやったら、お巡りさんがいらんのやで。アカン、インドでは、お巡りさんの方がもっと、かんにんだらけや。

新聞係りな、結構ええ仕事ですわ。

新聞読めて、お給料もらえてTwo birds with one stoneですわ。

丹羽慎吾

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