シューベルト~その深遠なる歌曲の世界(2)

『冬の旅』は『美しき水車小屋の娘』の続編のようなものといわれていても、童話のような作品とは全く違ったものであり、高校生が好むような歌ではなかった。そして『白鳥の歌』は各曲すばらしいのであるが、やはり高校生には手が付けられない難易度の高いものであった。
この3冊は私の家の書棚で静かな眠りについた。

目覚めたのは某芸術大学に入ってしまった時。大学では普通一年次にはイタリア古典歌曲を勉強する。ドイツリートは2年次である。オペラは3年以後、それで大学外の先生にシューベルトを教わることにした。

教材はペーター版『シューベルト アルバム 第1巻(ソプラノ・テノール用)』で、260ページもある原典版である。
シューベルトの原典版の楽譜は全て(ソプラノ・テノール)用となっている。
この第一巻には、前述の『美しき水車小屋の娘』『冬の旅』『白鳥の歌』の歌曲集と『魔王』『糸を紡ぐグレートヒェン』『野ばら』『鱒』『アヴェ マリア』『楽に寄す』等のポピュラーな名曲が34曲、全92曲が入っている。

一年次が終った段階で、東京二期会所属歌手、森敏孝先生(武蔵野音大)に師事することになったので、シューベルトの勉強はストップとした。(未着手曲は約10曲程度なのでまあ満足して終了)

 シューベルトを原典版で勉強する前、遊び半分ではあったが殆ど歌ったことがある曲が収録されていた、ペーター版の楽譜での勉強を一から始め出したとき、当初相当な違和感を覚えたのである。
それまで親しんできたメゾソプラノ(バリトン)用からソプラノ(テノール)用の楽譜に代わると、曲の雰囲気が全く変ってしまう作品があったのである。

『美しき水車小屋の娘』の主人公の少年は、原典版ではより溌剌とした若者として登場するし、『冬の旅』の主人公もまた、それまでの印象であった観念的な世界より人間的な世界で生きている、生身の人間の苦悶を歌う存在となったのである。
私のピアノは平均律調律で移調による音の変化は高低差のみのはずである。曲の持つ雰囲気が変るのは私の発声技術が未熟なためか・・・と思っていた。

~つづく~

杉本知瑛子
大阪芸術大学演奏科(声楽)、慶應義塾大学文学部美学(音楽)卒業。
中川牧三(日本イタリア協会会長、関西日本イタリア音楽協会会長))、森敏孝(東京二期会所属テノール歌手、武蔵野音大勤務)、五十嵐喜芳(大芸大教授:
イタリアオペラ担当)、大橋国一(大芸大教授:ドイツリート担当)に師事。
また著名な海外音楽家のレッスンを受ける。NHK(FM)放送「夕べのリサイタル」、「マリオ・デル・モナコ追悼演奏会」、他多くのコンサートに出演。

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