シューベルト~その深遠なる歌曲の世界(5)

移調での演奏から生じた様々な疑問、そこから古典音律(ウェルテンペラメント)といわれている調律法があり、それもヨーロッパでは平均律として調律されていたという事実を発見するに至ったことは衝撃であった。それもこれも平均律であるなら一体何が問題なのか!

簡単にさっと説明しようとすれば、ピアノを演奏して聴いていただくのが一番なのだが、生憎パソコンの文書から音は出ない。もし音がでるように出来てもデジタルピアノでの演奏のように、たいした違いは聞き取れないであろう。今回は機械的に12等分した現代日本の平均律と、代表的な古典音律の差が分かりやすいよう、数字表を掲載して比較できるようにした。

《全音階的音階の音高に関する各調律法の比較》
*音階(数字はセント値)

音名         ハ(C)  ニ(D) ホ(E)  ヘ(F) ト(G)  イ(A) ロ(H) ハ(C)
平均律(12等分)    0   200  400   500   700  900   1100   1200
純正律(ハ長調)     0  204    386   498    702    884   1088   1200
同(イ短調自然短音階)0     182    386   498    702   884    1088   1200
ミーン・トーン        0     193    386    503   697   890    1083   1200
ピタゴラス        0     204    408    498   702   906   1110   1200
ヴェルクマイスター
(ハ長調)               0     192     390    498   696  888  1092   1200
(嬰ハ長調 移動ド)    0   204     408    498   702    906  1110   1200
キルンベルガーⅢ
(ハ長調)                 0    193      386    498    697    890   1088   1200
(嬰ハ長調 移動ド)  0     204     408     500    702   906   1110   1200
____________________________________

あまり数字ばかり並べても疲れるので、主要な音程の数字は次回に記載することにする。

また、聞き慣れない言葉ばかりが出てきて意味が分からなくなる文もあるかと思うので、音大卒業生でもさっぱり分からない内容にならないよう、次回またはその次に各種調律法の変遷についても参考程度に記載するつもりである。
これら古典音律についての資料は、『ゼロ・ビートの再発見』(平島達司著、1987、東京音楽社)を参考にして記述している。

この無機的な数字の羅列がシューベルトと一体どんな関わりがあるのか・・・

シューベルトの最高傑作『冬の旅』だけを見ても、一つの歌詞にどれだけ違った調子で作曲していたか、シューベルトが調子にこだわっていたことがよくわかる事例はたくさんある。
また、彼は微妙な感情表現に転調を凄まじく多用している。
そういった調子による想念の表現を現代で理解するには、やはりシューベルトが使っていた音律(調律法)で調整されたピアノで聴かなければ、それらは全く別の曲となりかねない。
ピアノとはそういった楽器なのである。

演奏家により音色や共鳴や音高などを微妙に変化させることのできる、人体という楽器に比べ、ピアノは一度調律されれば、調律のやり直しをしない限り高さが一定である、という楽器である。その楽器を伴奏として歌曲は演奏されるのである。
ゆえに、現代において当時の音高に再現されているかどうかは、大きな問題となってくる筈である。

古い時代の音楽は、先ずその時代の楽器をその時代の音律で調律し、その時代の奏法で演奏することが出発点になるのでなければならない。(注1)
たとえば、ヘンデルのミーン・トーン音律やバッハのヴェルクマイスター音律の使用などである。
(シューベルトが使っていた時代のピアノの音律は何かということになるのであるが、それは、平島達司氏の研究により、ヴェルクマイスター音律と推定することができる。)
そして、それが現代の12等分平均律とどのように異なるのか、それを数字によって記載したのが前述の表である。
この音階表で、わずかな音程でもそれぞれの調律法によって違ってくるということは理解できても、それが人間の耳で聞き取れるほどのものかどうか、興味のある方は想像を逞しくして頂きたい。
分かりやすい説明は、以下の参考資料でしたつもりなので、それを再掲載させていただいた。
(注1)
その時代の楽器や奏法で演奏するとはいっても、古い音楽(クラシックといわれている音楽)は、現代までにおける各時代での名演奏家などによる一般的に広まった奏法があり、そういう伝統芸術は古い時代だけに目を向けるのではなく、(奏法などは各時代の奏法の上に)現代における古い時代の音楽を考え演奏すべきである。
世界の演奏関係者は、おおむねこのような立場に立って演奏していると考えられるが、ピアノ伴奏つきの歌曲では古典音律を特に意識して演奏されることは滅多にないといえるのである。

~つづく~

 杉本知瑛子
大阪芸術大学演奏科(声楽)、慶應義塾大学文学部美学(音楽)卒業。
中川牧三(日本イタリア協会会長、関西日本イタリア音楽協会会長))、森敏孝(東京二期会所属テノール歌手、武蔵野音大勤務)、五十嵐喜芳(大芸大教授:
イタリアオペラ担当)、大橋国一(大芸大教授:ドイツリート担当)に師事。
また著名な海外音楽家のレッスンを受ける。NHK(FM)放送「夕べのリサイタル」、「マリオ・デル・モナコ追悼演奏会」、他多くのコンサートに出演。

シューベルト~その深遠なる歌曲の世界(5)” に対して2件のコメントがあります。

  1. 杉本知瑛子 より:

    《全音階的音階の音高に関する各調律法の比較》
    *音階(数字はセント値)

    この表は音名の下に縦の数値を一列に並べなくては分かりません。
    最初の資料作りは手書きで作成。それを後にパソコン文書にしたのですが、縦を一列にしたつもりが、転載などを繰り返しているうちにグニャグニャに曲がってきてしまいました。「古典音律」に興味を持ってくださっている方には、この表以外にも数点の表と共に、資料としていた本の表をコピーしてお渡ししていました。

    本の表のコピーであっても、一般の方に簡単に理解できる代物ではないので、文芸館への掲載の際は省略されると思っていました。ところが、ところが・・数字が比較できないほどグニャグニャの表となって!掲載されている!

    もうしわけない!平均律(12等分平均律)と数値的に比較したい方は、ご自分で「音名」の下へ詰め詰めに書いてある数値を入れて、表を完成させてください。
    「セント値」というのは、12等分平均律の半音を100等分した数値です。
    半音が100なら全音は200です。    杉本 知瑛子

  2. sophia より:

    Nishiさま、ありがとうございます。表の数字がきれいに整列しています。
    これで振動数の差が大きいか小さいかがわかります。

    興味を持たれた方は実際の音を聞いてみたいと思われるはずなのですが、デジタルピアノでの音を聞いてがっかりされませんように。
    古典音律・特に調性がはっきりと分かるヴェルクマイスターは、その調律をしたピアノで聴かれることをお勧めします。

    ピアノをお持ちの方は調律の時、この音律に変更を調律師に依頼されて、曲として聴かれるのが一番分かりやすいと思います。
    特に初歩の簡単な曲、ハ長調のバイエル程度の曲の音のきれいさを感じることは容易いことです。
    普通の調律からヴェルクマイスター等古典音律に変更する場合、普通、調律費用は変りません。昔は特殊な調律として高額を請求するところもあったようですが、今では大抵の調律師が理論はともかく、虎の巻なる振動数の表を持っています。調律技術の差はさておいて・・・
    オーケストラの音を聞いて心地よくなるように、植物や動物がいきいきと成長するように、ヴェルクマイスターの音でピアノが雑音?でなくなり心地よい音になります。

    とりとめもなく話したくなるのでもうストップします。
    ヤタガラスさん!ありがとう!この表ではいつもイラッとしていたのです。
                  ソフィア

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