風化が進行する高い城壁
ひと群れ
菊科と思われる草がとりつき
橙色の花を咲かせている

肋骨交夜穹窿
堅固な梁でドームを支え
高く より高く
鈍化への烈しい希求
絶対を求める精神は
血まみれの手を要求した

嫌悪 憎しみ
一切の感情が漂白され
相手が人でなくなる一瞬
動物を縊る
玩具を壊す
新教徒の夥しい死体が
胸壁をはみだし
城門にも吊り下げられた

切りそろえられ
積み上げられた無数の石
少しずつ 少しずつ
欠け 崩れ
四百年は
かつての人間の縛り首の場
裏手の城壁のアーチ型装飾を消した

城壁の頂上近く
ひと群れ
橙色の草花
ふえ続けるがいい
土の塊と化した
胸壁 城門
びっしりと橙色の花で
埋め尽くされる朝

その早春の朝の空

 

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。
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