落日を

 
オレンジひと房を
陽に透かす
果肉には
点々と紅い血の雫

行き倒れた物乞い
革命の幻に傷を負った戦士
オレンジの樹の下に
癒されることのない渇き

光るオレンジの濃緑の葉
香るオレンジの白い花
生きのびた他人

三月の終わり
午後六時 太陽は
なだらかな山稜の縁にいて
まだ沈まない

告げられたばかりの春に
乾いていく土
渇いていく皮膚

スペインのオレンジの
果肉には
点々と血の色の粒
けだるい口に徐に運ぶ

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。
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