あの野原

若葉をつけた木々の枝が
大きく揺れている
桜の花びらが
渦を巻いて舞っているわ
ほら
ゴッホの野のような渦の巻き方
花びらが待っているのに
どうして わたし
厚いコートを着たのかしらね


花びらじゃなくて
雪だわ
雪が舞っているのよ
雪にしても
背景が萌えたつ若い緑とは
どうしたことかしらね
かあさま
とにかく わたし
でかけなくちゃならないのよ
アイボリーのブーツを履いて
会いに行くのよ
みんなに
あの野原で
待っているのよ
舞っているのよ
女の子たち
男の子たち

あの胸像も雪をかぶって
輪郭も溶けていくのよ
だから そのまわりで
女の子たち
男の子たち
舞い散る雪と踊るのよ
からっぽだった わたしたちの空
からっぽだった ぼくらの海
おまえの顔が
おまえの体が
雪に埋まって
これでわたしたち安らげる
これでぼくらも眠りにつける
胸像のまわりで
話すことはたくさん
聞くことはたくさん
からっぽだったわたしたちの空
からっぽだったぼくらの海
ここ数年 あなたは何を?
ここ数年 きみは何を考えた?
またさりげなく
あの子には
伝えてやらねばとも思うのよ

秋の日の長い手紙は
あれはほんの気まぐれだったと
だから とにかく
アイボリーのブーツを履いて
でかけなくちゃならないのよ
雪も渦巻く
緑も渦巻く
舞っているのよ
待っているのよ
あの野原で
女の子たち
男の子たち

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。
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