隣家のおじさん(主人)は物知り博士だった。でも病気がちで働いているのを見たことがない。天気のいい日は一人、縁側で日向ぼっこ。眼鏡、痩せて、顔は青白く、芥川龍之介という人に似ていた。

いつもラジオを聞いていた。訳の分からない会社の名前と値段を言うだけだった。ボクはいつのまにか「○○製薬ひゃくふたじゅうなな円5円やす」「××製菓ひゃくふたじゅうえん、3円だか」と暗記できるぐらい覚えた。何でこんなものが面白いのだろう、と思った。また「広瀬城」の山中鹿之助や「扇の的」を的中させた那須与一。信長の「鉄砲戦略の話、広島に落ちた「原子爆弾」の話まで色々教えてくれた。時々来る紙芝居より楽しかった。おじさんに耳垢(あか)をとってもらうのも好きで「早く耳垢が溜まらないかなぁ」と思ったくらいだ。

ある夏、おじさんが亡くなった。多分40歳くらいだった。土葬(当時)が済んだ夜8時ごろ、火の玉、いわゆる「人魂」が飛んだのを目撃した。色は青白く、少し黄色っぽかった。一緒にいた高校生の兄(八男)も「見た」。家の前の田んぼの上空約20mを右から左へゆっくりと飛んでいった。

「あっ火の玉だ、ねっ、火の玉だろ?」とボクが言うと、兄は「あぁ・・、確かに・・」と息をのんだ。時間にして10秒くらい。でもボクらは怖くなかった。

「おじさん……、だよね」とボク、「そぅじゃな(そうだな)」と兄。

あの火の玉はおじさんがボクたちに「さよなら」を言いに来たのだと思った。

母は「このことは誰にも言ってはいけないよ」と僕たちに言った。理由は漠然と分かったのでそれ以降、その話はしていない。日記には書いた。

(吉原和文)

4+