詩~空と湾

空と湾

 

手すり
窓枠

それらを逸れて
薄く
布切れのように落ちる影は
鳥のもの

岩陰では
ウニが
あと一晩の浅い息をつぐ
網袋に集められ
実験用です
触らないでください
そう書かれた札をつけて

瑠璃色の
ごく小さな魚を
夢中で追った
潮だまりの岩の裂け目
掴んだのはウニだった
昔のあの痛さ

手すり
窓枠

それらに囲まれ
鳥のようには翻らない影を
敷物に溜め
秋ちかい夜の水温


手足

全身の刺を微かに震わせ
ウニの呼吸をする
実験中です
触らないでください

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です