シンゴ旅日記インド編(91)ワテは運転手 日印食事の巻

ワテは会社の運転手で、ご主人は日本人の社長さんでんねん。

前の日本人社長さんに丸二年、そして今の社長さんに仕えて三年目ですんや。

その前は韓国人の社長さんの運転手もしたことありますんや。

 

ちょっと前のことですわ。うちの社長さんの誕生日でしたわ。インドで三回目ですわ。

今年でちょうど60歳にならはったんやて。そんな歳に見えへんけどなあ。

そんで、60歳には見えませんねって、みんなで言うと、『そんなことないでしょう。そうですかぁ?

60歳には見えませんかぁ?もっと若く見えますかぁ?それは50歳くらいということですかぁ?』って、なんかへんに言葉がひっくり返ってもうて、ワテらにしつこく聞いてはりましたわ。

そんなん、お世辞に決まってまんがな。結構、単純な社長さんでんねん。

 

それからですわ、お客さんが来はるたんびに、『自分は60歳になりました、還暦です。』って言ってはるそうですわ。きっと、お客さんから『えっ、そうなんですか?そんなお年には見えませんよ。』って言われるんを心待ちにしてはるんでっせ。これな聞いた話やけど。

 

会社には社長さんの他に、去年の4月に来はった日本人の若いスタッフが二人いてはるんですわ。不思議なことに、このお二人さんも、社長さんと同じ5月生まれなんですわ。

うちの会社ではスタッフの誕生日には昼食後にケーキでお祝いすることになってまんのや。

けど、インドではそのケーキの一部を誕生日の人の顔に塗って祝ったりするんですわ。

聞いた話やけど、日本にも顔に墨を塗ったり、田んぼの泥を塗って健康を祝う行事があるそうでんな。それって、インドから行ったんとちゃいまっしゃろか。

誕生日の話しやわ。今年は三人とも忙しかったさかい、なかなか一緒になる機会がおませんでしたんや。

そんで、一度に三人さんの誕生会をしたんですわ。

けど、今年はケーキの顔塗りはしませんでしたわ。

 

その誕生会では日本人の部下の人たちは日本から買うて来たジャパニーズ・ワインを社長さんに贈ってはりましたわ。結構ゴマすってまんな。ワテらインド人スタッフは、社長さんにワインを二本あげましたんや。

それも、ちゃんと綺麗な紙に包んでリボンつけたんでっせ。

けどね、これな、日本人の部下の人がおらん時にやで。

そやかて、日本人の部下の人には何にもあげてへんさかいな。

二人には内緒にしといて下さいね。

けど、二本で2500ルピー(4千円)近い買いモンでしたんやで。

一人500ルピー(800円)やがな。ワテにとっては痛い出費ですわ。

簡単な昼食10回分ですわ。ワダパウなら50個はゆうに買えますわ。

しょうがおませんわ。ワテらの給料を決めはるのは社長さんやもんね。

それに、この前はワテの不注意で会社の車をぶつけた時に、右のヘッドランプの修理費用を会社で払ってくれはったたんでっせ。

ワテは自分のせいやよってに、いったん自腹を覚悟してましたんや。

そうしたら、社長さんが領収書もって来いって言わはりましたんや。

助かりましたわ。ワテの給料の四分の一くらいがふっとんでしまう金額でしたんや。

社長さん、見た目通り、デブ、いや太っ腹でんな。

 

ワテな、社長さんが毎晩食事せんと、ワインだけを飲んではるって知ってまんのや。

毎日ちゅうくらいに、会社帰りにワインショップの前に、車を止めさせて、インド産のワインを買って帰らはるんでっせ。今日はどんなんがあるんやとか、高いんとちゃうかなんて、お店の人と楽しそうに話してるのが車の中から見えますわ。

はよう帰りとうて待つワテらの身にもなって欲しいわ。

そやさかい、社長さんがお酒はワインしか飲まんちゅうことをみんなも知ってますんや。そんで、去年も今年もワイン贈ったんでっせ。

けど、三日目には、もうワインショップに寄って買うてはりましたで。

二本を二日で飲んでしまはったんやろか。

インドは、最終商品価格を商品に表示しますねん。ワインの場合はボトルの裏ラベルに表示したるから、社長さんがそれを見はったら、いくらのワインか分るンやけどなあ。ちゃんと、読んでてくれてはるかなあ。

いつも社長さんが買うとはるのより、高いワインなんやけどなあ。

けど、部下から、もらいはったジャパニーズ・ワインはどないしたんやろか。

 

それに社長さんな、朝もお食事をせずに、コーヒーがジュースだけ飲ははるだけらしいですわ。

そやから、お食事は会社で食べる昼ごはんだけですわ。

それはチキンカレーやったり、ベジ・ブリヤニやったり、タリーやったりですわ。

最近は日本人の部下の人と中華料理をみなさんで取って分けて食べてはりますわ。

そやそや、今年もまた日本人スタッフがゾウインされるんやて。

そんで、若い日本人スタッフのお一人がそのランチの目で見るメニューを作るちゅうことで、届いたランチを食べる前に毎日写真を撮らはったんですわ。その間、社長さんと、もう一人の日本人スタッフは『まだか』って顔して待ってはったんでっせ。

そんでも、あれでんな。インドの料理は写真を撮っても、色がおんなじやよってに、どれがチキンカレーで、どれがダルカレーやわかりませんけど、中華料理ちゅうのは見た目で色が違うもんでんな。

そやけど、中華料理って言ってもね、インドに中国人はおらへんから、北インド人が作ってる料理なんでっせ。顔は中国人みたいやけど、ネパールや、ミヤンマーに近いところのインド人ですんや。

社長さんらは、まあインドの中華料理やから、こんなもんかなって食べてはりますわ。

 

社長さんな、『空腹が人を健康にする』ちゅう本を読まはったらしいですわ。『一日一食』で20歳若返る!!ちゅうタイトルらしいでっせ。本の帯には『おなかがグーッと鳴ると、体中の細胞が活性化する! 健康は見た目に表れます。生命力遺伝子を活用して美しく元気に生きる方法!』って書いてあるらしいようでっせ。聞いた話やけど。食べすぎこそ病気の始まり、ごはんを食べたらすぐ寝ようとかが内容らしいですわ。

 

そやけど、社長さんが一日一食なんは、単なる不精なようやけどな。

一日一食やったら、夜中にお腹が空かんのやろか。ワテやったら、もたんわ。

まあ、ワイン飲んではるから、酔っばらって寝てまうだけやろうな。

それに、社長さんな、なんでもきれい過ぎるのは良くないって毎日シャワーを浴びとらんちゅう話でっせ。せっかく自分の体が作った抵抗力を石鹸で洗い流す必要はないって言ってはるそうやわ。これって、日本の小説家の五木寛之って人が言ってはるらしいですわ。聞いた話やけど。

 

社長さんな、別の時にも清潔過ぎるのは良くないって言わはった時がおますんやで。

その時は、確か、『No fish in clean water』やって言わはったわ。

社長さんな、インドでも日本でも政治家はお金をもらうもんや、ダンゴーも必要悪や、日本でも学校の先生や、入院先の医者にお礼を渡すやないかって意味のわからんこと言ってはりましたわ。

でも、この英語は社長さんが勝手に作りはった英語やろうけど、わかるような気がしますわ。

ワテらの国やったら、『Too many fish in very dirty water』やろか。

ワテの食事でっか、あきませんがな、インド人ですがな。

間食しますんや。この間食ちゅうか、スナックが多いんですわ。

インドって、油で揚げるもんが多いでっしゃろ。

そんで若いときから太ってしまうんですわ。

ワテがベジかってですか?

ちゃいまんがな、ワテはクリスチャンでんがな。ノンベジでっせ。

うちの事務所の他のスタッフはみんなベジですけどな。

それに宗教が絡んでますやろ。

プネはガネーシャ祭りで有名な町でんねん。

ガネーシャの牙は右側が折れてますやろ。

あれって何でか知ってまっか?

ワテ、クリスチャンやけど、知ってますで。

お月さんでんがな。

えっ、牙がお月さんかって?ちゃいまんがな。

お腹の出たガネーシャさんを笑ったお月さんをガネーシャさんが牙を折ってのろいを掛けて投げつけたんで、それから不吉になったお月さんは蓮の花の中に隠れて出てこんようになったんですわ。

そんで、神さんたちがガネーシャにお月さんを許してやってくれって頼んで、お月さんが出てこられるようになったんやけど、ガネーシャの祭りの期間だけは月を見ることが不吉となったんですわ。

そんでかどうか知らんけど、うちのスタッフの一人は満月から4っ日目と、毎週木曜日は断食の日なんですわ。

断食ゆうても、食べてもエエもんがあるらしくて、いつもはチャパティと野菜やけど、断食の日は何かツルツルのもんを食べてますわ。

サゴ・ライスって言ってましたで。

もう一人のスタッフは土曜日が断食の日らしいけど、うちの会社は土曜日は休みやったり、半ドンやさかい、ランチを会社で取らんのですわ。そんで、彼が会社で断食の食事をするんを見たことがありませんわ。

 

日本の人がインドで食べもんに苦労するように、インドの人も日本に行くと苦労するようでんな。

この前、社長さんが二人のインド人を日本に連れて行ったときのことを話してくれましたわ。

二人ともPure Vegetarianでしたんやて。

四日ほど日本にいたんやけど、毎日がインド料理やったんやて。

日本のインド料理っていうても、ベジとノンベジがごっちゃになっとるそうでんな。

それにネパールやパキスタンやバングラの人たちもインド料理やって店出してはるらしいですね。

これって、チェンナイにあるモモヤマちゅう日本の居酒屋風の店のオーナーが韓国人やちゅうのとおんなじことやろか。

社長さんが二人を連れていったんはアイチケンちゅうとこの田舎やったそうですわ。

そんなとこにも、インド料理店さんがあるんやね。

その日は、ちょうどお昼ころに、小さな町中を車で客先へと走っていたら、あんじょうインド料理ちゅう看板が見えたんで、慌ててそこに入ったんやて。

社長さんと運転してはった本社の人は、セットメニューを頼みはったそうやけど、インド人二人はメニューを見て、ネパール人らしい店長を呼んで、なんやかんや聞いたりして、なかなか注文をせんかったらしいですわ。。やっと注文が決まって店長に伝えたら、しばらくして店長が二人のそばに来て、何か言ったそうですわ。そうしたら、二人がまたメニューを見て注文し直したらしいですわ。そんで、出てきたもんはちょっとだけの野菜とパパルやったんやて。

そんで、社長さんが二人に何で料理を食べへんのやって聞いたら、その日はインド人は断食する日やって店長が伝えたらしいですわ。ワテはクリスチャンやから、関係ないけど、ヒンズーの人はややこしいんですわ。

 

まだ、話は続くんでっせ。

そんで、お腹が空いた二人は途中でコンビニに寄ってスナックを買いたいって言ったらしいですわ。そやから、社長さんたちは車を止めてコンビニに入ってビスケットとかなんか一緒に探したんやて。

二人は欲しいものをあれやこれや持って来て、社長さんに見せて『これにタマゴは入っているかどうか見てくれ』って聞いたそうですわ。Pure Vegetarianはタマゴも駄目なんでっせ。

そんならミルクはどないやってですか。

ミルクはウシを殺さへんでもエエから、飲んでも問題おまへんにゃがな。

もともと肉を食べたらアカンちゅうのは、動物を殺すからアカンからでっせ。

そんで、社長さんがビスケットの袋に書いたるの原料を読むと、どれもこれもタマゴが入っていたらしいですわ。日本のビスケットは全部にタマゴが使ってあるそうでんな。

そんで、社長さん、最後には『これには、タマゴは使ってません』ちゅうて、ビスケットを買わせたそうですわ。

これ社長さんが嘘こいたんかなぁ、それとも本当に入っておらんかったんやろか。

 

でも、聞いた話やけど、そのPure Vegetarianの二人って、めっちゃめっちゃ太っておるんやて。

そんで、社長さんな、そのインド人の一人に、どうしてベジでも太るのかって聞いたんやて。

そうしたら、答えが、『私よりも太っている象も、牛もPure Vegetarianです』やったんやて。

すんません、これが今日のオチなんですわ。ほな、さいなら。

丹羽慎吾

 

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です