詩集

荻 悦子
荻悦子詩集「時の娘」より「笹百合の頃」

笹百合の頃   気がふれている と言う噂の 山の娘が ふいに私の家の庭に降りたち 私に押しつけた 笹百合の花束 私はごく幼かった 目覚めのあとも尾をひく 午睡の夢 椅子に寄りかかり こうしているよりほかない 視 […]

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荻 悦子
荻悦子詩集「時の娘」より「アダージョ」

アダージョ   粘りついて重ったるい アダージョ こんなふうに 弦を撫でまわしてほしくない 街で 子連れの女乞食を 何組も見た 色石の象嵌の鮮やかな 大聖堂の大理石の壁際に 乳呑児が古布にくるまれて眠り 裸足の […]

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荻 悦子
荻悦子詩集「時の娘」より「夕映え」

夕映え   雪溶けの雫が テラスの壁を伝うのを 見つめている 目の粗い日よけ布 天井から下がる陶器のランプ ここに座っている テーブルクロスの縞の数 カットグラスに映る顔のゆがみ ここに座らされている わずかば […]

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荻 悦子
荻悦子詩集「時の娘」より「扉」

扉 でだしが肝心なのだ 低く遠慮がちに 甘すぎてもいけない 「ミシュレです 奥さん」 「どなた」 「ミシュレです どうか扉を」 三階からの声は「何」「誰」を繰り返した挙句 冷淡な「ノン」 インターフォンは切られてしまった […]

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