新加坡回想録(30)「唐草」「双喜」「龍と鳳凰」模様

子供の頃から幾度となく見てきたラーメン鉢によくつかわれている模様の話です。「唐草模様」「双喜模様」「龍と鳳凰模様」など、なんとなく中国風のイメージは感じられますが、今まで深く考えたことがありませんでした。

唐草模様は、正確には「雷文」といい、「唐」の名があらわすように中国でよくつかわれる模様で、”魔除け”の意味があります。

双喜模様は、「喜」の漢字を横に二つ並べたもので、喜びが二つですからこれはわかりやすいですよね。

龍と鳳凰模様は、中国に古くから伝わる伝説の生き物である「龍」と「鳳凰」を描いています。これらはいずれも、非常におめでたいことを意味しています。

日本では、節分の日に豆をまいて鬼が家のなかに入ってこないようにする「魔除け」をします。中国にも、同じような豆まきの習慣がありますが、豆を投げつけるのではなく、魔物に拾わせるために豆をまくそうです。 撒いた豆を魔物が拾い集めているときに唐草模様があれば、魔物は迷路のような唐草模様のせいで道に迷い 逃げていってしまうのだそうです。唐草模様は、中国人にとっては、魔物を追い払ってくれる、とてもにありがたい模様なのです。

双喜模様は、おめでたい「喜」の字が二つ並ぶのだから、非常におめでたい意味を持つのはいうまでもありません。

「龍」は、昔は皇帝の紋章として用いられた絵柄で、かつては皇帝しか使うことが許されなかったほど尊い模様です。それがやがて、一般の人たちにも使うことが許され、丼の模様などにも描かれるようになりました。ただし、皇帝とまったく同じように使えるのではなく、一般庶民の場合は、5本指の龍しか描くことができなかったといいます。因みに皇帝の使う龍は6本指の龍です。

「鳳凰」も、日本でも京都・宇治の平等院鳳凰堂などに使われているように、非常に高貴とされる生き物です。中国では、聖天子の治政の兆しとして現れると言われています。龍と鳳凰という、中国で最も尊い意味をもつ幻獣2匹を描いた模様は、たしかにラーメン丼の模様のなかでもひときわ格調高い雰囲気を出しているようです。

これら3つのタイプの模様が、日本のラーメン丼に使われるようになったのは、大正末期から昭和初期にかけてといわれています。唐草、双喜、龍と鳳凰など、おめでたい模様の丼に盛られたラーメンは、食べ物のなかでも特に縁起がいい食べ物という訳わけですから、これからは、有難く食べたいと思います。

(今回の話題は、特にシンガポールと関係が深いという訳ではありませんが、国民の76%が中華系の人という環境から住んでいるとどうしても中国文化を身近に感じることになります。旧正月の時期ともなれば、街は”赤”くなります。

(西 敏)

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