昔むかしの話。「うちの孫はワインを飲みたくないという、困ったものだよ。昔は子供も少し水で割ったワインを飲んだものだ。孫はコカが良いと言うんだ。」「お年は?」「7才だけど」(コカとはコカコーラのこと)かくしてフランスでは子供の時からワインの味を覚えるのだと思った次第です。

パリに赴任した直後、郊外のマンション3階に住んだのですが、すぐ近くを確かシトローエンという自動車メーカの鉄道輸送用の側線が通っていました。一日2~3便程度長い貨物列車が車を積んで通行しました。私が目にしたのだから多分日曜日、線路工夫が保守点検をしていましたが、線路の脇にワインボトルが見えました。

事務所には車で通勤していましたが、一年に何度かパリの出口で一斉検問があります。パリ市内で重大事件が発生した時などの対応策です。結構渋滞して窓越に身分証明を要求され、時にはトランクを開けろと言われます。当時は飲酒運転でしたが、この点は全く問題になりません。第一、検問しているポリスが足元にワインボトルを置いていたくらいです。

私の古い友人でルイさんというポリテク卒業生がいます。エコール・ポリテクニックというナポレオン創設と言われる秀才を集めた技術系の大学です。この学校を卒業すると末は大臣、高級官吏、或いは大会社の社長と言われています。(話題の日産ルノーのゴーンさんも同校卒業生)

この学校では一年に一度パリの中心にあるオペラ座を借り切ってダンスパーティーが開催されるそうです。卒業生やその家族、そして現役学生も加わって大変盛況だそうです。卒業生は優秀な後輩を知るため、学生は将来の就職のため先輩と知り合いになりたいなどそれぞれに思惑があるようですが、何よりも重要なのは娘の伴侶を見つける、そして男どもはそんな彼女を見つけるためと言われています。そこで学生は懸命にある勉強をすると言います。勉強のテーマは「ワイン」です。ワインの話で家庭が判るということでしょう。

数年前その友人ルイさんが日本にやって来た時の話。最近日本酒「獺祭」がパリで大変人気を呼んでいると聞きました。私は耳にしたことのないブランドだったので、彼の発音では「ダッサイ」それとも「ザッサイ」?どちらの発音か不明でした。しばらくして品川で飲み会があり、安いチェーンの飲み屋でまさかと思いながらこの発音のお酒があるかどうか聞いてみました。それがあったのです!店に残る最後の一本、350ccのボトルでした。とにかく安い酒だったという事でしょう。

友人の話によるとまずアメリカで流行したらしいが最近パリの高級サラリーマンがランチの折、従来のグラスワインに代えてこの日本酒を好んで注文するようです。正直、世の中も変わったものだという思いでした。アメリカの酒類はすべて海外から、そして何もかも色々ブレンドしてカクテルにしたり、ソーダや水で割って飲むのが普通だったからです。

本来アルコールドリンクはそのまま頂くのが本来の味を楽しむことではないかと思っていたので、昨今と言わず戦後長く日本もアメリカの影響を受けて水割りやソーダ割を飲んでいたはずです。昨今は逆に日本のお酒がアメリカ経由でヨーロッパに行くなんて文化逆流の時代だという思いです。

さてここからは私の理屈です。結論を申し上げれば人がワインを選ぶのではなく、ワインが人を選ぶということです。私はレストランでワインを選ぶとき一度あのワインを飲みたいとか今度はこちらにしてみようとか余り考えたことはありません。素直にソムリエさんにおすすめを聞くことにします。

ソムリエさんというのはレストランのドリンク専門、そして私の注文をちゃんと知っていてそれに適したワインを勧めてくれます。ランチタイムのカフェレストランではハウスワインを頂くことにします。その日のランチに一番適したワインを今日のハウスワインとして提供しています。要は安くて料理にぴったりという理屈です。

レストランでワインを注文するとソムリエさんが注文主のグラスにほんの少しのワインを入れて味見を依頼します。デギュスタシオンと言いますが、味の確認とコルク屑をゲストのグラスに入れない配慮、更にもう一つ毒味の意味があると聞いています。

日本では乾杯!と言ってグラスをチーンと当てあってスタートしますが、向こうでは軽くグラスを挙げるだけです。テーブルはそんなに狭くないとかグラスに入っているワインの量が多いからこぼれる、或いは高級グラスに傷をつけたくないとか、まあそれが習慣ということです。

ボトルが空に近づいたとき、ボトルの最後の一滴を相手のグラスに「あなたに幸せを!」と言って注ぎます。最後の一滴を貰うと幸運が来るとか、年内に彼女が出来るとか適当な理屈で、要は「これでお終い!」と宣言する訳です。

私のワインボトルも底に近づきました。この残りをあなたのグラスに、そして「良いお年を!」と申し上げます。

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