がんを考える4~妻の入院でわかったこと

今回で我が家の闘病記も4回目を迎えます。時代が変わったとは言え、「がん」と聞くと話がどうしても重くなりがちです。そこで今回は、がんとは直接関係のない軽る~い話をします。60歳半ばまでほんとうに健康で入院したことがなかった妻が入院することになりました。私は普段、ワンちゃんの散歩とほんの趣味程度の料理以外、家事についてはほとんど何もせず、たまにフロアに掃除機をかけることぐらいしかしたことがありませんでした。

これまで妻が毎日やっている家事を横でみているだけの私に、妻の入院中困らないように、洗濯機の使い方、風呂やトイレの掃除の仕方、その他もろもろのことをメモに書いてもらうことにしました。これがないと時間ばかりかかって不便だからです。

たった9日間ほどのことでしたが、毎日の家事の連続は正直大変でした。5時に起きてまずワンちゃんと1時間散歩に行きます。帰宅してワンちゃんの足と体をきれいに拭いた後そのタオルを洗って干します。天気の良い日は簡単ですが、雨の日は少し面倒です。ワンちゃんは雨合羽を着させてはいても泥跳ねがあるので、きれいに洗ってあげなければなりません。これはいつもやっていることなのでどうということはありません。

家事としてはまず、散歩に出かける前に洗濯機のスイッチを入れることから始まります。書いてもらったメモ通りにボタンを押していきます。少し戸惑いながらも何とか動き始めます。散歩から帰ったら次は、部屋に掃除機をかけます。これは簡単です、動いていれば掃除機がゴミを吸いとってくれるので。ただ、うちは、ワンちゃんがいるので抜け落ちた毛が多く少し丁寧にやる必要があります。掃除機もいろいろ試しましたが、吸引力の強いダイソンは強い味方です。

洗濯機が止まったら、洗濯物を干します。これもそれほど難しい作業ではありません。独身時代にはやっていたことなので簡単です。次は、ベランダに置いてあるオリーブの木やラベンダーその他の鉢植えの植物への水やりです。日照りが続くとすぐに枯れてしまうので、特にハーブ類には、鉢底から水が垂れるほどたっぷりと日が昇る前にやらねばなりません。

今度は料理。我が家では、今まで、出来上がった惣菜などを買ってきて食べるということがなく、全部妻の手造りでした。妻自身が食い道楽というか食べることが大好きで、どちらかというとファッションなどよりも食べることにお金を使う主義です。お蔭でエンゲル係数が高すぎるといつも友人に注意される始末。こんな時こそ惣菜を買ってきて食べれば簡単でいいのにと娘や友人に言われましたが、長い間の染みついた習慣でそうはしたくないものです。

現役の頃、食品原料などを担当していたこともあり、私自身も食べることには人一倍興味があります。料理そのものにも興味があったので退職後料理学校に通ったことが役に立ちました。4人前の料理となると大変ですが、2人前程度なら作ること自体はたいしたことはありません。この際、料理も楽しんでやろうと前向きな気持ちになりました。

妻の入院中の自分ひとりのメニューなら、炒飯やカレーライスのように簡単なもので済ませるだけで充分ですが、今回は、退院後の二人分の料理を考えなければいけません。長期の自宅療養となると毎日飽きないようにバラエティに富んだメニューを考えることと、栄養バランスを考えることが大切です。脂っこいものよりあっさりしたものとか、病人の食べやすいメニューというといろいろとそれなりに考えなくてはなりません。

そういえば、妻が時々、1週間から10日分のメニューを考えてノートに書き、それに必要な食材をメモして買い物に備えていたことを思い出しました。自分も真似をしてやってみます。メニューが決まったら買い物です。3日から1週間先を見て消費期限、賞味期限を考慮に入れて生もの、加工品を上手く準備せねばなりません。

実践でわかったことは、食欲のない病人でも、どちらかというと基本の和食が食べ安いようでした。料理学校へ通ったといっても、レシピを見ないでさっさと作れるほど熟練しているわけではないので、もちろんレシピ頼りの素人料理です。でも、筑前煮、肉じゃが、ほうれん草のお浸し、牛肉のしぐれ煮、みそ汁、あさりの吸い物など典型的な和食を学校で勉強しておいてよかったです。

あと、妻は、毎日のように、アイロンがけやお風呂、トイレの掃除をしていたし、キッチンのレンジフードや窓ガラスなども毎週必ず掃除していました。家で一人になって、妻が家でしていたことを思い出してみると、毎日、毎週必ずやることがあるということは、大変なことだとわかりました。若い時は、これに子育てが加わっていたことを考えると自分には出来ないことだと思いました。

家事をやってみて初めてわかったこと
「男は外に出れば7人の敵あり」という諺の通り、家から出て外で仕事をすることにはいろいろな苦労がありますが、家で毎日決まったことをたゆまずやるということもそれに劣らず大変なことだと実感しました。好奇心の強い私には、忙しくても外での仕事、特に新しいことに挑戦する仕事は楽しかったですが、変化に乏しい家事(ほんとうはクリエイティブな仕事なのかもしれませんが・・・)の連続は絶えられないことかも知れません。

この、家での大変な仕事を何十年も妻がこなしてくれていたことを、定年退職するまで、そして妻が自宅療養することになるまで気がついていなかった自分が恥ずかしくもあり、反省しきりです。いまさら遅いかもしれませんが、長年家を守ってくれた妻に感謝です。面と向かっては恥ずかしくて言えませんけど・・・。何をいまさらと世間の主婦たちに叱られそうですね。すみません・・・。

~つづく~

蓬城 新

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