笑説「ハイムのひろば」1~「WSOD」

はじめに

まずはじめにお断りしておきますが、この笑説(駄文故、小説と呼ぶのはおこがましいので笑説としました)に登場する地名や人名等は、すべて想像から生み出されたものであり、実在の場所や人物とは一切関係がありません。但し、世の私小説がそうであるように、ベースにはノンフィクションがあり、それにフィクションが重なり展開されています。この形態を「ニューフィクション』と名付けたいと思います。

尚、筆者はダジャレや落語、漫才、ノリ突っ込みなど言葉遊びが大好きなため、ところどころに、そのような表現が混じることがあります。真面目な読者には耳障りなことと思いますが、どうぞご容赦いただきたく、よろしくお願いいたします。

1 「WSOD」

「西さん、大変です。ひろばが真っ白です!」

眠い目をこすりながらゆっくりと取った受話器からひどく興奮した大声が聞えてきた。一瞬、言葉の意味が分かりかねて、考えを巡らせた。「広場が真っ白?」いったい何のことだろうか。2月2日、日曜日、夕食を終えた途端に持病のヘルニアの薬の副作用でまた眠くなり横になっていたらもう9時を回ってしまっていた。

確かにまだ2月上旬で日はもうとっくに暮れている。しかし、今年は暖冬と言われ寒さも前の広場に雪が積もるほどではないはずだ。

寝ぼけた頭にやっとピントが合うまでに数10秒かかった。「『広場』ではなく『ひろば』のことか!それが何で真っ白に?」

西野敏彦(ニシノトシヒコ)は、JR南武線沿いにある大型マンション「ニュー多摩川ハイム」の住民の一人だ。木村拓哉が「キムタク」と呼ばれるように、時々縮めて「ニシトシ」と呼ばれることがある。「ひろば」とは彼が制作技術の担当を務めるホームページ「ハイムのひろば」のことである。

電話の相手は、同じマンションに住む友人、宮下直近、同じくホームページ制作スタッフの一人で、主体の「ひろば」のみならず、「緑の委員会」「文芸館」「美術館」「蝶図鑑」などの姉妹サイトでも八面六臂の大活躍をしている。あらゆる物事に通じており、博士とあだ名されるほどの物知りである。

その宮下が続ける。「いま見たら、『ハイムのひろば』が真っ白になっていて何も見えません!いったいどうなっているんでしょうか?」興奮冷めやらぬ宮下は、息を弾ませながら問い詰めてくる。

そして、電話口でさらに叫び続ける宮下直近の次の一言に、西野の驚きは2倍3倍に膨らんだ。

「『ひろば』以外に『蝶図鑑』と『クイズ』も真っ白になってます!」

今までにない出来事に西野は、それこそ頭が真っ白になりそうだった。いつぞや関西の有名料亭の不祥事記者会見で「頭が真っ白って言いなさい!」と息子に囁いていた母親の姿が浮かんだ。(そんなことを思い出している場合じゃない)
そして自分に言い聞かせた。落ち着け!まず落ち着いてどう行動するべきかを考えろ。

やるべきことを整理した。まずは、すべてのサイトを見廻って被害状況を確認すること。真っ白で見えないサイトはいくつあるのか。外部からは見えなくなっているが、管理者としてログインはできるのかどうか。画面が真っ白な3つのサイトの状況に違いはあるのか。短時間で修復できる可能性はあるのか。

調べた結果、画面は真っ白で何も見えないが、管理画面へのログインはできる。ということは、原因さえつかめれば自分で修復できる可能性はあると判断し、さっそく取り掛かかる。これまで経験のないトラブルだったのでネットで検索してみたところ、「真っ白現象」はこの世界では英語で「WSOD(White Screen Of Death:死の真っ白画面)」と呼ばれ日常茶飯事であり、多くのサイト所有者が同じような状況に陥り困り果てて相談を持ちかけていることがわかった。そして、それに対して助け舟を出している記事も多くあった。

それらの中からこれはと思えるものを選んで読んでみる。さらに状況の似ているものはプリントアウトしてじっくり読んで修復の手順を試してみる。1時間、2時間、3時間、いろいろやってみたがいずれも効果なく時間ばかりが過ぎていく。

いつの間にか夜も更けて、やがて窓から薄っすらと明りが入ってくるようになった。いつもなら、例の薬(”くすり”であって、”ヤク”ではない!)のせいで眠気が強くなるはずが不思議と何ともなく頭は冴えている。それだけ興奮しているのか。

そして、愛犬との散歩の時間が刻々と近づいてきた頃になって、ついに問題が解決した。真っ白だった画面に「ハイムのひろば」の大きな文字がくっきりと見えた。

「やった!」と思わず一人でガッツポーズ!

……しかし、この時西野は、トラブルがこれだけで済まないことを知る由もなかった。

~つづく~

(蓬城 新)

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