笑説「ハイムのひろば」8~「リニューアル隊」誕生

8. 「リニューアル隊」誕生

その後も毎日、修復作業に取り組み続けたがなかなか終わらない。簡単にはいかないことは承知の上なので辛抱強くやるしかない。やがて、トラブル発生以来10日が過ぎた。同時進行で行ってきた地道なファイル移行作業もかなり進んできた。あと少しだというところで休憩を入れた。ふと、この「ハイムのひろば」が出来た頃のことが頭に浮かんだ。今となるともうよい思い出だ。

実は、2018年4月の「ハイムのひろば」のオープンは、正確にいうと「リニューアル・オープン」であった。このマンションのホームページは2005年12月に創設されたが、それは「ホームページ・ビルダー」というソフトを使って作られたものだった。このソフトが初めて世に出たのは、1996年のことで、HTMLタグを知らなくてもホームページが作成できるという画期的なものとして一世を風靡した。西野が人気の高いこのソフトを手にした時はその便利さに感動して一挙にホームページ作りにのめりこんでいったのだ。

ただ、その後開発されるソフトと比較すると便利さにおいて大きな差が出た。旧サイトもそれなりに内容を充実させていたが、中身が多くなるにつれてトップページが煩雑になりデザイン的にもすっきりせず、目的のコンテンツを探すのもひと苦労するといった感じになっていた。それを、WordPressを使用してリニューアルするとすっきりして随分見やすくなった。これは、まさしく時代の流れであり、より便利なソフトが生まれてくれば自然と起こる世代交代のひとつであったろう。

2001年に Movable Type、2003年に WordPress が当初ブログ作成ツールとして発売され、2008~2009年にかけてブログ専用ではなくCMS(Contents Management System) として進化を遂げた。以前は、プログラミング等の特殊技術を持った者しか作ることができなかったものが、このころから初心者でも簡単に立派なものが作れるようになった。以後その他のソフトも開発されているが、このWordPress は先行したMovable typeを抜き去り、世界で最も利用されるCMSとなった。

因みに、WordPress は2016年時点で、CMSによってつくられたサイトの約60%、全てのサイトの約25%を占める超人気ソフトとなった。しかもオープンソースで作られており誰でも無料で使用できる。一部に、WordPressはセキュリティ上脆弱性があると言う者もいるが、では他のソフトはどうかといえば特にハッキングに強いわけでもなく五十歩百歩であろう。今までWordPressを使用して20件以上のサイトを作ってきた西野の経験からして特に不満はなかったが、今回ばかりはひょっとしてスパムにやられたかと初めて疑いを持った。

ホームページ・ビルダーは、一人で管理するには便利なソフトだが、チームで管理するには少し向いていない点がある。編集作業は各々のパソコンで行い、できたものをネット上にアップロードする。それに対してWordPressは、ウェブ上で(ネットにつながった状態で)で編集作業ができるというもので、複数の編集者がどこからでもログインできるという点で大きく異なっている。加えて、このホームページビルダーを使いこなせる技術を持つメンバーも当時のハイムには不足していたこと、さらに、メンバーの高齢化の問題等もあり若返りも必要であった。

西野が理事会から正式に依頼された時の最大の注文は、「単独で管理するものではなく複数の管理者が共同で管理できるもの、しかも初心者でも扱いやすいもの」ということであった。もしできなければ、例え費用がかかっても外部発注してプロのデザイナーに依頼することも選択肢のひとつになっているとのことだった。それを聞いて西野は理事会に対し即座に答えた。

「失礼ながら、プロに頼めばいいものができるとは限りませんよ。住民が集まって力を合わせて作ることに意義があると思います。どこまで満足していただけるものができるかわかりませんが、ここは任せてください。できる限りやってみます」

「やるだけやってみて、いいものができなければその時は外部発注しようが、ホームページを持つこと自体を諦めようがそれはもう仕方がない。自分はベストを尽くすだけ。あとは理事会が決めることだ」と割り切って考えざるを得ない心境になった。その時からある意味での苦悩は始まっていたが、WordPressはそれを実現できる最適のものだと確信していたことも事実だ。

WordPressは複数管理に向いている、しかも初心者でも基本的なことを覚えれば比較的簡単に投稿などの作業ができるという特徴がある。これしかないしこれを利用すれば必ず希望のものができると進言し、外部発注には住民の一人として真っ向から反対すると伝えた。幸いにも当時の理事長も賛成してくれた。あの時大見得を切った以上は、どんなことがあっても修復しなければならない。こんなことならやはりプロに頼めばよかったと言われない為に。

西野が最初にやったことは、WordPress初心者講座を開き、使い方を覚えてもらうことだった。数か月の講座を経て受講生の何名かは簡単な作業ならできるようになっていった。新たに募集して集まったこの講座の受講生たちがやがてボランティアで「ハイムのひろば」の制作そしてその後の維持管理に携わることになる。この講座への参加者が中心となって「リニューアル隊」が誕生したのだ。

これで、新しいサイトを作れば複数のメンバーが管理者として参加でき、鏡と理事会の要望に応えることができる。そのためには、まず、この初心者講座を成功させなければならない。うまくいけば趣味で始めたホームページ作りが初めて人の役に立つ、しかし失敗すれば何だか恥をさらすようになりそうだ。責任の重さがずっしりと肩にかかるのを感じ始めていた。

~つづく~

蓬城 新

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