笑説「ハイムのひろば」9

9. 「つくり隊」誕生

「リニューアル隊」と名付けられたホームページ制作チーム総勢14人へのWordPress講座は、その後、月に2度のペースで開催された。WordPressという言葉すら知らなかった者が殆どだったが、みな熱心に講義を受けてくれた。進歩に多少の差はあっても少しずつ投稿やデザインの仕方を覚えていった。最初のグランドデザインだけは西野が作り、あとの細かい部分はメンバーが全員で話し合いながら自分たちで作っていくという方針を決め、船出はうまくいったと思った。

ところが、予想もしないことが起こった。西野が病魔に侵されたのだ。入院、手術、後の自宅療養と続くので現場を離れるしかなかった。幸い、ちょうど最低限必要な分の講座は終えていたので、「私の役目はこれで一旦終わりにさせていただきます。しばらくは一緒に出来ないのであとは皆さんで頑張ってください」と言うしかなかった。その後は必要に応じてメールでやり取りし、伝えたいことはすべて伝えた。隔靴掻痒の感はあったが、完全に連絡が途絶えたわけではなかった。

その後半年が過ぎ、体調が戻り久しぶりに顔を出した時には、リニューアル隊を管轄する立場の理事会のメンバーが総入れ替えとなっていた。外注せずにこの活動をハイムに残してくれた元理事長も当然交代していた。そして新理事会からホームページ担当として新たにリニューアル隊に加わった広報担当理事と初めて会うことになった。それが、山名賢治であった。親しい仲間からは名前をもじって「ケンジ(検事)」と呼ばれたりする。彼とは顔を合わせる前に何度かメールで交信していたが、その時の印象では物事をきちっととらえる人物という感じがしていた。

山名がWordPressについての知識もあり、自分個人のホームページも持っていると聞き、西野は自分の幸運を思った。今までの孤独な活動を思うと、強い見方ができそうで希望が膨らんだ。そして初めて会って話をして知ったことが一つあった。それは、山名が、理事会傘下の組織であるリニューアル隊の中途半端な位置づけを憂えて、そのための規約を作ろうとしていたことであった。すでに草案が出来ていて、リニューアル隊のメンバーに披露された。

原案はほぼ満足のいくものであったが、一点だけ、「コンテンツについての最終権限は理事会にある」という項目が気になった。この点にはメンバーの多くが反対し、委託される以上「コンテンツについての最終権限はリニューアル隊にある」とすべきだと訂正を求めた。自分たちが良識に基づいて作り上げた内容には最後まで責任を持つという気概を感じたし、理事会から自分達の活動をコントロールされたくないという強い意志が感じられた。西野は、このやり取りを第三者的に見ていて、メンバーの頼もしさと同時に、原案の修正を了解した山名の懐の深さを感じた。名前の通り”賢”く”治”めることのできる人間だと思った。そしてそれは、西野の「リーダーの独断専行は絶対に避ける」という考えに沿うものだった。

この会に出席するのは久しぶりのことだったが、西野は、新しくできる組織のリーダーは山名に任せたいと思った。それまでは、この会の代表を誰にするかという話し合いはなかったようで、理事会から参加している山名が自然と議長役を務めていた。場合によっては、初心者講座を開いて素人集団を引っ張ってきた自分が今後もリーダー的役割を引き受けるべきだったかもしれないが、病み上がりで健康的不安があったこと、それと年齢的にも若い山名に最初から任せた方がよいと判断して代表に推薦し、全員から賛同を得た。

新しいチームの代表が決まり、会の名は「ハイムのひろばをつくり隊」となった。同時に、山名代表の提案で、この会のモットーとして「楽しく、面白く、ためになる」という言葉を採用した。さらに、毎月、原則として最終日曜日に月例会を開き、毎週水曜日に勉強会を開くことも決定した。こうして組織ができ、いよいよ具体的な活動が始まったのである。

通常、ホームページは、ウェブデザイナーが一人で作るものである。勿論、制作を注文したオーナーの希望やアイデアを取り入れるが、最終的にはオーナーが満足するものができればいい。そこには、それぞれのデザイナー個人の個性が出るものだ。西野が理事会から正式に制作依頼された時の最大の注文は、「単独で管理するものではなく複数の管理者が共同で管理できるもの」ということであった。

今回、オーナーは基本的にこのマンションの全住民である。全住民を代表して様々なことを決定していくのが理事会である。理事会から委託を受けてホームページ作りを全権委任されているのが「つくり隊」なのだ。従って、「つくり隊」メンバーはこれから作るホームページのオーナーの一人でもあり、同時にデザイナーでもあり、総合的な制作者でもあるわけだ。

西野がまずメンバーに伝えたことは、通常は一人で作るものを10名以上で作ろうとしているのだから意見の違いは必ず出てくる。全員の意見が一致することはまずない。そこで、まずはどのようなものにしたいかという希望をそれぞれ言ってほしい。徹底的に自由に話し合って妥協点を見つけて作り上げていく姿勢が大事だ。特にデザインやカラーの好みは人それぞれで意見を統一するのは簡単ではない。声の大きい者の希望だけが反映されるようなものであってはいけない。

さらにはっきり言うと、デザインやカラーの組み合わせ等についてはセンスが要求される。自分の主張をすることは構わないが常に一歩下がって他人の意見を大事にすることを心掛けてもらいたい。せっかくいいもの創ろうという同じ思いで集まったこの会だから、ここにいる間は、楽しく、愉快に過ごせる時間にしていきたい。酸いも甘いもかぎ分けた大の大人に対して言うのは失礼かとも思ったが、西野は敢えてそうお願いした。

そして、西野は土台となるサイトを作り上げた。「これからは私が作るのではありません。みなさんが作るのです」いわゆるテンプレートから一歩進めたものを作ってメンバーに見せて、トップページの構成をどうするか、メニューはどんな項目を選び、どの部分にいくつ配置するかなど、ひとつひとつ話し合いながら進めていって欲しいと言った。言いたかったのは、「ベースを作った西野自身の趣味やセンスを気に入ってくれるのは嬉しいが、そればかりではチームの色がでない。むしろそれを壊して新しいものを作ってほしい」ということだった。

西野は今でも時に思うことがある。何か思いついた新しいことを提案すると、メンバーはあからさまに反対することは少ない。それはおそらく、西野の20年に亘る経験を信頼してくれているからだろう。しかし、そればかりではいけない。このグループを作ることを鏡から依頼された時にただ一つ心に決めたことがある。それは、「リーダーとして独断専行だけは絶対にやらない」ということだ。この精神は未来永劫に続けてほしいと思っている。

~つづく~

蓬城 新


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