初めてムール貝というものを食べたのは30年以上前に出張でオランダに行った時だった。その時、友人とレストランへ行き、その友人が注文してくれた。そして出てきたのが小ぶりながら金属製のバケツ一杯の黒い貝。これがムール貝というものか、でも磯の岩についているムラサキ貝に似た貝で、これを食べるのかと思ったものだ。
いざ食べてみると意外にうまい。白ワインを飲みながら一つ一つ。そこで友人に教えられたのは、貝の身を一つ一つフォークで外すのではなく、一つ食べたあとの貝殻をピンセットのように持って、次の貝の身を挟んで外すやり方。そして、貝殻はその前に食べた貝の殻に入れ子にして重ねていくのだ。そうすると、バラバラに捨てると随分かさ張るが貝がスッキリと片付く。それを聞いて、自分でやってみて、なるほどと納得し、妙に感心したことを思い出す。
二人でバケツ一杯、気が付くとアッと言う間に空っぽになってしまった。注文した貝が出て来た時は、二人でとはいえ、そんなに貝ばかり食べられるものかと思ったが、食べ終わってみると、あとを引く食べ物だとも思った。

それからの数年はこの貝には縁がなかったが、オランダに赴任することになり、再度ご対面となった。今度は、わざわざレストランで食べなくてもそこらのスーパーで1キロ・2キロと袋詰めで売られているものを一緒に煮込む薬味(香草類を刻んだもの)とともに買ってきて自分で料理する。料理という大層なものではなく、白ワインを入れて香草類と一緒に大鍋で煮るだけ。要はムール貝のワイン蒸し。アサリの酒蒸しと同じ要領だ。私は、さらにタイム・ローズマリー・クローブ・レモン・ネギ、それにセロリーをたっぷり加えるのが好みである。要は、香り付けは何でも好きなものでよい。
この食べ方は日本に帰国してからも続いている。しかし、なかなかいいムール貝にお目にかかれない。たまにスーパー・魚屋で5-6個を大事そうにパックに入れたものを見かけるが、数が少なすぎ、オランダの時のように食べようと思うと、何パックも買わねばならず結構高い食事になってしまうのが難点。でも、昔を思い出しながら、貝のピンセットで身を外し、入れ子の貝をたくさん作りながら食べている。

この貝は、やはりムラサキ貝の近縁のものだが、ムラサキ貝のように貝毒はなく、オランダでは南西部のゼーラント州の汽水域でたくさんとれる。オランダだけではなく、フランス・ベルギーのレストランで出されるものの大半はオランダ産が輸出されたものと聞く。日本で手に入るものはどこで獲れるものだろう?

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