追憶のオランダ(24)エッシャーのこと

私はエッシャーの不思議な絵(版画)のファンである。もうかれこれ30年近くは経つと思うが、新宿の小田急百貨店で「エッシャーの不思議な世界展(甲賀正治コレクション)」という展覧会があり、そこで多くの作品をみたのがエッシャーにのめりこんだきっかけである。それまで、白い鳥と黒い鳥が夜昼の田園風景の上を互いに行き違う絵とか、水が無限に流れ落ち続けるあり得ない絵を何度となく見ていたし、それぞれ鮮明な記憶は残っていたが、当時は妙な絵を描く人がいるものだ、それにしても面白い・・・と思ったが、作者までは知らなかった。

この小田急での展覧会は、幸運にもエッシャーの膨大な作品を譲り受けることになった甲賀正治という人のコレクションとかで、その時4分冊になって黒い箱入りの豪華な作品集を買った。結構高価でもあった。上の写真は、その作品集と展覧会のチケット。それ以降、無限に反復・拡散・収斂する連続図形の面白さにもひかれ、その類の書籍も随分読み漁り、購入もした。ただ、彼の作品を表現する時に「だまし絵」という言い方をする方が結構いる。しかし、エッシャーの作品は興味本位で見る人を騙すことを目的にしたものでは決してない。むしろ、無限に反復・拡散・収斂する連続の中に微妙な変化が起こってくるその不思議さを明示してくれているものだと思う。

それから数年して、私は何とそのエッシャーの生まれた国に赴任することになったのだ。版画だから同じ作品が何点もある。それでいろいろ調べた。といっても、その頃はまだ今のように便利なインターネットなどは普及しておらず調べるにも苦労した。その結果、ハーグの美術館にたくさんの作品が収蔵されていることを知り、何度も足を運んだ。また、彼が影響を受けたというアラベスク模様の実物を見るためにスペインのアルハンブラ宮殿などにも行って実物を見て、その空間を埋め尽くす発想に驚かされもした。

いろいろエッシャーについて調べていて、さらに驚いたことがある。彼が父親を描いた作品は有名だ、サンバイザーのような帽子をかぶり、右手に大きな虫メガネをもって何か書類らしきものを見ているドングリ眼の老人。この人こそが、明治初期にオランダからのお雇い外国人技師としてその他のファン・ドールン、デ・レイケなどの土木技師の先輩格として日本に来て、淀川・木曽川など多くの河川の改修、あるいは福島の安積(あさか)疎水開削など数多くの日本の治水事業に貢献してくれた、いわば恩人だったのだ。当時は、日本ではエッシャーとは呼ばず、エッセルという呼び名で呼ばれていた。その父親がオランダに帰国して後に、この芸術家エッシャーが生まれている。絵だけでなく、何と不思議な縁で日本とつながっていたのである。

最後に、甲賀正治コレクションにも含まれていないエッシャーの作品を持っているので、ご紹介しましょう。
それは、オランダ最大の百貨店、バイエンコルフの包装紙です。たまたまこの百貨店で買い物をして、包んでくれたのがエッシャーがデザインした包装紙なのです。白と黒で”DE BIJENKORF(バイエンコルフと読み、意味はと言えば、「ハチの巣」のことです。)”と、反復するパターンです。写真上部には1933年、エッシャーが35歳の時、バイエンコルフのためにデザインしたことが印刷されています(拡大できます)。すぐには気付かず、洒落たデザインだな、くらいに思っていましたが、よく見ると何となんとエッシャー作品ではないですか!
というわけで、エッシャー関連の書籍やグッズと一緒に今も大事に持っています。


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