追憶のオランダ(4)蕗を採る話

おかしなことに、ただ日本を離れていると思うだけで、どういう訳か日本ではあまり好んで食べなかったものでも無性に食べてみたくなることがあるものです。私にとっては、蕗(フキ)もその一つでした。子どもの頃から、蕗はあの独特の匂いが嫌で食べなかったものの一つでもありました。それが、オランダに住むようになって、なぜか食べたくなったのです。

ある時オランダ国内を車で走っていて、高速道路沿いに少し葉は大きいが立派な蕗らしいものがたくさん生えているのを見かけたのです。それ以前にも一度、八百屋で蕗によく似た、しかし茎が少し赤みを帯びたものがあったのでてっきり蕗の一種だと思って買ったことがありました。でも、それは似ても似つかぬ歯ごたえ、酸味のある味。後で調べると、それはルバーブというものでした。見事当てが外れてしまいました。ルバーブは例えばクタクタに煮たりしてジャムにしたり、それなりの食べ方はあるらしいのですが、こちらとしては蕗が目当てだったので、がっかり。ということで、それ以降は自分なりに探していて、ついに高速道路沿いに見つけたと思ったのです。

これはルバーブのように茎も赤くないので間違いないと思い、他人の目など気にせずおもむろに車を止め、ガードレールを乗り越え外側に出て、手ごろなのを10本ばかり切取り、そこではすぐ大きな葉だけ落とし車に戻り、意気揚々帰宅。まだ期待していました。家に帰りもう一度よく香りを確認しようとしたのですが、殆ど蕗のあの香りはなし。見た目にはルバーブよりははるかに蕗らしいのですが、少しだけ悪い予感がよぎります。ともかく、煮てみることに。しかし、やはりあの香りはせず、灰汁だけは蕗よりも強く、醤油を濃くして煮つけてみたものの結構硬く、お世辞でもうまいと言える代物ではありませんでした。これが二度目のがっかり。

三度目は、三度目の正直と言いますが、昔から住んでいる日本人から耳よりな話、蕗の種を日本から取り寄せ庭に植えていると。そんな人もいるんだ、それだ!訪ねて行ってみると、まさに蕗畑がありました。香りも正真正銘日本の蕗です。4年目にして、オランダで生の蕗が手に入り、食べることができました。その人も私と同じような経験をしながらやはり最後には日本から種を取り寄せ、自分で育てることになったようなのです。蕗は、日本原産の植物なのです。でも、悲しいかな、その人も今はもうこの世にはおられません。蕗はちょうど今頃が旬ですが、蕗を食べるたびに思い出します。4月12日が、その人の祥月命日です。合掌。

    追憶のオランダ(4)蕗を採る話” に対して2件のコメントがあります。

    1. ままっこ より:

      ようやく蕗が手に入ってよかったですね。日本原産の植物とは知りませんでした。
      わたしも蕗が出回ると思い出すのは生前母がよく作ってくれたキャラブキです。
      自分でも毎年作るのですがどうしても母の味にはならないのです。不思議ですね。あの味が食べたいなぁ。

      1. MiyagawaNaoto より:

        コメント有難うございます。
        オランダで初めて本物の蕗に出会えた時の感激は今でも忘れません。もっと他に感激できることはあるだろうに・・・、でも、大袈裟ですが、そうなんです。
        私は、白だし・みりん・醤油それに鰹節をきかせた薄味で、あのシャリシャリという歯触りがなくならないように煮ます。至ってシンプル。ただ、スジを取る下処理はちょっと面倒ですが、これだけは丁寧にしておかないと。

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