荻悦子詩集「樫の火」より~「双子座流星群」

双子座流星群

 

東の方
それから南へと空を仰いだ
点々ときらめきがあり
翳りのあるレモン色
光は強くない

流星は
どの辺りに現れるのだろう
双子座が
どんな姿をしていたか
ともかく今にやって来る

北半球の

主な星座の名前と形
あなた
大まかにでも話せますか

子どものころ
空が
頭上に迫るような夜にも
星座を見分けるのは
難しかった

山稜に縁取られ
丸い空いっぱいの星
谷間の夜
父が星を指指すたび
途方にくれた

夥しく光がある
その輝きのなかから
柄杓や熊の輪郭を掬い取る
星と星とを
存在しない線で結ぶ

私は八歳だったが
理科を学んでいるとは思えず
遠い昔の人々が
星に絡めた地上の物語に
ほとんど魅力を感じなかった

なぜか
双子とされた星のまわり
塵がたなびくなかを今
地球が
私たちが過っている

強い光が
一点から溢れ出るはず
放射状に現れるはず
後から後から
すぐ上に

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。