果汁

ふるさとのみかんを
ジューサーにかける
滴り落ちる果汁の
香り高い優しさ
なんて
安易な思い入れに
陥るのはよそう
銘ずべきは
季節のはしりを

送ってくれた
叔父夫婦の心根であって
果汁では
まして
メカニックな
ジューサーではない
テーブルに残った
艶のある厚い皮は
バスタブに浮かべ
芳香のなか
蜜柑色の夢を見る
のも
もうたくさん
海の魚に
風に
鳥に
ただの石の柱にさえ
なりたい人
なってしまった人が
あまりにたくさん
と知ったから
樹になりたかった日々のことは
忘れることにし
わたしは
にんげん
ミューズからは
脳髄の襞を盗む
すてきにオリジナルな

詩句を吐き
二人 三人
四人 五人の
男ぐらいは惑わす美女
となりたいつぶやき
シャワーがかき消し
なまやさしく
目をつむりたくない二月の咽喉に
絞りたての果汁は
にくい
ほろ苦さ

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。
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