「西さん、真っ白状態は直ったけど、今度~つづく~は、管理画面に入れません!これでは記事の書き込みができません!」

とまた宮下からの連絡だ。それは西野に強烈な追い打ちをかける言葉だった。

ホームページに何か異変がある時それに気が付くのは、いつも宮下が一番だ。メインサイトである「ハイムのひろば」には、数人のスタッフが交代で記事を投稿しているが、「蝶図鑑」については蝶に詳しい宮下ともう一人の担当とたった二人だけで投稿している。「緑の委員会」にいたっては、植物にも詳しい知識を持つ宮下がたった一人で記事を投稿しているのだ。

この宮下という人物の才能はさらに幅広く、あまり周りで聞いたことのない「漆芸」つまり、漆を用いた工芸という趣味を持っている。「美術館」にはその作品を提示しているし、「文芸館」にももちろんたくさんの記事を連載し続けている。多芸であるが故に、彼はとても忙しいのである。毎日、多くの姉妹サイトのどれかの画面を開いて見ているのである。

因みに、「蝶図鑑」は、「ひろば」がオープンして丁度1年後、昨年4月末に開設した。以前、宮下からハイムには蝶にとても詳しい松田隆という人がいると聞いていた西野は、いつか子供たちのために「蝶図鑑」を作りたいと思っていた。紹介されて松田に会ってみるとさして変わらぬ年恰好ながら、今でも純粋な少年の心を持つ人物で、早速一緒にやりましょうと意気投合し実現したものである。

その二人の思いのこもった「蝶図鑑」にログインできなくなった。同じ問題が起こった3つのサイトのうち、「クイズひろば」は自分の企画で一人で作ったものであるからどうにかなってもまあ気が楽だ。しかし、「超図鑑」はこの企画を最初に出したのは西野であり、二人に頼んで協力してもらったという思いがあるので早く何とか修復してあげないと申し訳ないという気持ちが強い。

いずれにしても、事態はまだ収まっていなかった。外から見ただけでは何も変わらない状態だが、舞台裏ではまだまだ問題があることに西野は思い知らされた。帰宅途中に知らされたこの連絡に対し、仕方なく「帰ったら、何とかするからしばらく待ってください」というよりほかはなかったのである。

さてどうするか。サイト全体の構成からして、やはり「ひろば」が最も複雑で2年間という運営機関からしてデータ量も半端なく多い。そこへ行くと、「蝶図鑑」は1年、「クイズひろば」はまだ半年ということで比較的身軽だといえる。この時、西野の頭の中で修復の仕方が分かっていたわけではないが、唯一経験のあるデータ移行を考えると何となく身軽な方が早く収拾できそうだという予感がした。

帰りの電車の中で、帰宅後の修復の進め方のシミュレーションをしてみたが、果たしてうまくいくのだろうか。昨日サーバーに送った問い合わせに対する返事はいつ来るだろうか。そしてその内容は的を射たものであるだろうか。このまま長期間に亘ってもし復旧できなかったらどうしよう。みんなに申し訳ないことになる。と、いろいろな思いが交錯する。

しかし、うつ向いていてもしようがない。みんなを不安にするだけだ。前を向いて何とかなるさと明るく振舞わないといけない。まあ、ごちゃごちゃ考えていてもしょうがない。なるようにしかならない。

心の中で、二人の自分が戦っている。明るく積極的な自分と暗く消極的な自分。長嶋茂雄と野村克也。"勘(感性)"で行くか、"理詰め"で行くか。ここは、子供のころから大好きだったミスター「長嶋茂雄」で行くことにしょう!