オランダに来て2軒目の家として住んだクラーリンゲンの家は、会社の公邸になっていた。そこには大きな庭があり、人工の池も作ってある。おそらく昔の住人は魚でも飼っていたのだろう。私達が住みだしてからは、何も飼ってはいなかった。しかし、春先になるとカエルやらイモリやらが来て卵を産む。カエルはすぐいなくなるが、イモリは結構そのあとまでいる。そのうち何匹かを水槽に入れて部屋に置いて飼っていた。エサもちゃんとやっていたが、ある時気づくとその水槽が空っぽになっているのだ。イモリは死んだわけではなく、蓋の部分に小さい隙間があったらしく逃げ出してしまったようなのだ。爬虫類のヤモリとは違い、イモリはカエルと同じ両生類なので水が近くにないと困るはずだが、死んだのでなければいいかと思い、ずっとそのことは忘れてしまっていた。
ある時、部屋の掃除をしていて、部屋の隅に置いてあった箱を動かして、そこに奇妙なものを見つけたのだ。ほこりを被っているがよく見れば、それは干からびてしまったイモリなのだ。すっかりやせ細って、生きていた時のぽちゃぽちゃした感じは全くなく、どちらかというと骨格標本のような感じになっていたのだ。気の毒な事をした。逃げる方向を間違え屋外までは逃げられなかったのか・・・。部屋の片隅で逃げ場所を失って命尽きたのかと少し憐れになった。
そこで考えた。そうだ、このまま捨ててしまわずに、これに漆を塗ろう、漆で固めてやろう。私はその頃から漆塗りを習い始めていたのだ。そして、このイモリのミイラにも何度か生漆を塗った。実際は塗るというより漆をしみこませるのだ。木の盆や椀などの木目を見せる拭き漆という手法だ。漆なら防腐効果もあり、補強にもなり、一挙両得だ。
その漆塗のイモリは今も手元に置いてある。生きている時は分からなかったが、骨格標本のようなミイラになったので、足の指先までキチンと形を留めている。体長はわずか5cmほどの小さいものだ。もちろん20年前に生きていた時のようなぽっちゃりとした体型ではなく、腹の赤い色もなくなってしまったが、むしろこの精悍な感じがいいと思っている。

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