塊あるいは魂

手を触れるだけでばらばらと落ちる小さな舟型をした緑の植物
の塊 地に落ちた肉厚の塊のひとつひとつが残らず根を出し
朽ちて行く古い塊の先には見る間に数個の芽が花びら状に寄り
合って吹き出す
おびただしく殖え続ける塊 もう五年もそれを見てきた おび
ただしく殖え続ける肉厚の塊に侵食されて私の肉は次第に削が
れて行く

何度目かの雨の後 舟型の塊をびっしりと付けた中心の茎は蛇
のようにくねり出しさえした 塊と書こうとして何度も魂と書
いてしまう私は思う 私の肉がそがれていく分 私の魂が増殖
するのだ この植物の殖え方のようにむくむくと重く醜く
帰れない もう戻れない ふうわりと私の魂が帰るはずだった
場所

杉・樫・椎の木々のくらがり 雛壇状に配列された幾十の石塔
幼くして逝った者の丸い墓石 苔が覆いもう刻字も読みにくい
地蔵型の墓石 その並びのなかに あれは会ったことのない父
の母そして父の妹
細い道を隔てて他に一家系の墓所があるのみの深閑とした斜面
茅をかき分けて坂を降りれば刈り場に続き やがて 川 
幹に空洞を抱えて何百年を生きた杉の枝にそっと止まって 辺
りの草木を数えていたかった

緑の塊の陰に蛇苺の花に似たあせた黄色の見ばえのしない花を
見つけた夕暮れ 私は手あたり次第その植物を茎から手折って
ダスト・ボックスに投げ入れた 小さな舟型をした植物の肉厚
な塊は乾いた音を立てて八方に飛び散った ダスト・ボックス
の中でもすぐ芽を吹きそうで私は急いで蓋を閉めた
私が折り返し 棒の如く土に立っていた折れ茎は 二2週間後
ひとつ残らずその先端に赤色を帯びた粒状の芽を吹き出した

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。
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