プロカメラマンの秘密を探る③~シンメトリー1

前回、「天使の階段」について述べたが、その写真を撮って20日ほど経ったある日、野村さんは、同じような時間にまた多摩川にやってきた。そこには、あのカヌー(カヤック)がまた音もたてず静かに水面を滑っている。前回は、1艘だけを撮ったが今回は2艘である。

丁度昇る朝日が背景にあり、これがポイントになっていい写真が撮れそうだ。ただ、今回は2艘のカヌーであるならば、なんとなく、2艘であることの特徴を出したいと思う。見ていると、2艘のカヌーはそれぞれのタイミングですいすいと前進しているが、ふと、パドックがきれいにシンメトリーを作る瞬間があることに気がつく。

これだ!この瞬間をレンズに収められたら面白い。そこで、太陽が丁度背景の真ん中に来るタイミングを狙って連射する。果たしてうまく撮れただろうか。連射の中の一枚に、幸い2つのパドルがほぼバランスの取れたシンメトリーになっているものがあった。これも儲けものの一枚だと野村さんは言う。

ある時、このカヌーの主に話を聞く機会があった。素人ならきっとバシャバシャと水しぶきが上がってしまうのにと思っていたが、すぐにこの疑問が解けた。聞くと、彼らはカヤックの選手とそのコーチだという。多摩川の上流にカヌーをつなぎ留めておく場所がありいつもここで練習しているという。

「シンメトリー(左右対称)」はデザイン用語のひとつである。当然、写真や絵画でもシンメトリーは重要な要素のひとつだ。反対の言葉は「アシンメトリー(左右非対称)」という。一見アンバランスに見えて、釣り合いを保っているデザインをインフォーマルバランスという。写真でも、シンメトリーとアシンメトリーの両方が生かされている。

日頃から、ホームページのデザインに取り組んでいる私にとっても、このことは非常に参考になる。単なるメニュー項目の並べ方にもバランスが重要だと思っている。私見だが、同じシンメトリーではあっても、偶数より奇数の方がバランス上収まりがいいとも思う。そして、どこからでも学ぶ余地はあると思う。野村さんのように謙虚さがある限り。

(今回でシリーズ3回目のこの記事は、6月10日に開催されたプロカメラマンの野村成次氏の講演会で披露された写真についてのものです。当日出席できなかった方やもう一度あの感激を確かめたいという方のために、実際に野村氏から伺った話を元に少々筆を加えて書いています。)

~つづく~
(八咫烏)

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