フランスあれこれ(13)パリのカタコンブ

カタコンブと言うと通常は地下の墓地ですが、パリのカタコンブは違います。ひと言でいうと地下の遺骨埋葬地です。わざわざ墓地から遺骨を移送再埋葬したものです。正確には市営納骨堂です。

私がこのカタコンブに行ったのは50年以上前のことです。何故カタコンブに入る事になったのか、当時の事情は全く思い出せませんが大変衝撃的な思い出だけが記憶に残っています。その頃はまだ人気の観光スポットでもなく、ひっそりとした遺跡の一つに過ぎなかったと思います。入り口で入場料を払ったかどうかも記憶がありません。当時は午後の一定時間のみの入場が可能で、その日は入り口にせいぜい20名程度の人が集まっていました。夫々番号札を受け取って入場します。出口で回収するので紛失しないように注意がありました。もう一つ必需品があります、それは懐中電灯かローソクです。私は準備不足で使い残しのローソクを頂きました。

いよいよ入場です。厳重な注意事項がありました。それは勝手な行動はしない!集団で移動することでした。暗くて細い道を少し進むと急な、そして狭い螺旋階段をひたすら下ります。あっという間に方角を失います。全くの闇夜になりました。そして細い道を一列で前進するのですが非常に長く感じました。やっと入り口に到着ドアを開けてもらいましたがそこは死者の世界。ミイラではなく白骨の街道です。2~3mほどの道幅の両側に人骨を壁のように積み上げ、壁の上に一列に整列した頭蓋骨が私たちを監視するように見つめています。手元はローソクか懐中電灯、光の届くのもごく近いところだけ、一歩前進すると頭蓋骨が一つ近寄ります。

やがて少しは目も暗闇に慣れかすかに前方を見ることが出来るようになり、道幅も広がり、交差点があり、心も落ち着いてくると何となく死者の街、パリの裏道を歩いているような気分になりました。やはりここは死者の街なのだ。学生風の若者が横道に入り次の交差点まで点検に向かいます。途端に大声で「そこからは曲がらないで帰って下さい!」、ガイドさんの話によると、それ以上進むと声が聞こえない、万一明かりが消えると全くの暗闇、人間の世界に帰れません!とのこと。時々迷子が出て大騒ぎになる由。そのために番号札を回収して全員帰ったことを確認するのだと言います。

若い人は慣れるのも早い、やがてこれは美人だとか、頭蓋骨に傷があるので事故か事件だとか。或いは両目に指を突っ込んだりするものまで出てくる始末、またもや案内員から厳重注意!私は子供の頃からのしつけのせいか全くそんな感情にはなりません。むしろ一人一人の人生を思い辛く悲しい感傷に沈んでいました。

交差点を曲がるごとに反対方向を眺めましたが同じような街道としか見えません、見えないだけに大変不気味な気分です。20分くらい歩いて出口に出ました。入り口と違って明るい世界に飛び出したという感じです。

パリのカタコンブについて少し調べてみました。日本人には今一つ人気が薄いようですが大変な人気の観光スポットになっているようです。来場者の多い日には2時間待ちだとも言います。ただ見学できるのは今も昔も同じ1.7㎞、しかし照明をはじめ完全整備されているようです。横道に入ることも閉鎖されたりして不安も心配もなくなっているようです。入り口の螺旋階段は130段、地下約20m、そして遺骨の配列も色々と遊びが入ってワインの樽だったり、ハートマークに頭蓋骨が配列されたりしています。遺骨の総数は500~600万体、総延長500kmにも及ぶ街道に配列されているとやら。

ではどうしてこんな納骨堂が出来たのか?それはパリの街の発展と共に教会隣接の墓地が満杯になり、更には異臭や腐敗で衛生上も耐えられなくなったため18世紀後半から現在地に移送したと言います。カタコンブの場所は当時パリの郊外、石切り場のあとだった由。

私は一つの疑問を持っています。何故フランス人は人骨を素直に触り、面白く悪戯をしたりできるのか?と言う事です。亡くなった人は既に神のもとにと言う事でしょうか。

(写真は最近のネット検索です)

 

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