追憶のオランダ(20)骨董屋の話
正直言って、私は昔から骨董品というものにはあまり興味はありません。何百万円とかする茶碗や軸物などを有り金を叩いて買い求めることには、全く興味はないということです。ですから、日本でも骨董屋の前は殆ど素通りでした。オランダに住んでからも、最初の頃は同じでした。アンティークと書かれた店はただ眺めて通るだけでした。しかし、ある時その店先で足が止まってしまったことがありました。その店は、よく行っていたデルフトの広場の近く、市庁舎の脇を抜けた橋のたもとにある店です。左の写真、手前の茶色の建物が店で、その奥に見えるのがデルフト市庁舎。店の外に無造作に置いてあるかなり傷がある壁タイルに目がとまったのです。そこで、その一枚を買った時から、私と骨董屋の付き合いが始まったのでした。その店には何度足を運んだことか。右の写真、その店先で店主と。
また、同じようなタイルを扱っていそうな骨董屋もあちこち探し、デルフト以外の町にも足をのばし、骨董屋仲間に店も紹介してもらい訪ねて行ったり、業者仲間の市にも顔をだしたりと、急に熱心になりました。何人もの骨董屋の店主とも知り合いになりました。そのうちの一人とは、帰国後も新しい情報を送ってもらい、何度か彼から買ったことがあります。さらに、これは全くの偶然ですが、京都にある骨董屋にオランダのアンティークタイルがあることを知り、京都まで訪ねて行ったのですが、そこの御主人は私がたくさん買っていたデルフトの別のもう一軒の骨董屋の若主人と知り合いだったのです。世の中狭い。
ある時、アムステルダムの骨董屋に初めて行ったのですが、箱に詰められたアンティークのタイルを一つひとつ見ていると、後ろからいきなり「あたなが○○を探している日本人か?」と声をかけられました。こちらは、考えもしてなかったので、びっくりして「そうだが、でもなぜ?」と答えました。その後話を聞くと、店の主人曰く「同業仲間から、ある日本人が○○を探しているがなかなかいいのが見つからない、と言っているのを聞いたことがある。」と。あちこち探し回っていたので、知らぬ間にタイルを探し回っている日本人の噂が広まっていたのです。
結局、その店にもいいものはなくて、「いつ入荷するか分からないが、今度入荷したら連絡してやる。」ということで、電話番号を教えて帰ったことがありました。新しい(?)アンティークタイルというのは、古い邸宅を取り壊す時にしか出てこないので、なかなかチャンスはありません。改修すればそのままタイルはその家に残ってしまうことが殆どなので滅多に新しいものが骨董市場には出回らないということです。あるとすれば、昔取り壊した時に出たものでこれまで保管されていたものが売りに出されることくらいでしょうか。