追憶のオランダ(29)牛蒡を植えたら

ちょうど蕗をさがしていた頃、これまた別の日本人の知り合い(御夫妻とも音楽家で、ロッテルダムのご自宅で補習校をなさったり、日本人の子女教育に大変貢献された方々です)のお宅にお邪魔した時、外の小さな菜園に何やら見たことのあるものが植えられています。牛蒡です。昔、大東亜戦争の頃に日本軍が捕虜を虐待して木の根っこを食べさせたといわれたその牛蒡です。目の前にあるのは、本物の牛蒡で、一部花が咲き終わって綿帽子のような種が出来ています。いい物を発見。後でその種を少し分けて頂きました。

その頃、我家は棟割長屋だったのですが表と裏にそれぞれ庭がついており、少し広い裏庭にハーブ類やらと一緒にその頂いた牛蒡の種を撒いてみました。翌年夏過ぎまでに5株がかなり成長して、まずは葉っぱの部分から頂き、葉牛蒡よりも少し硬いが美味しく食べられました。

さて、本体や如何に。ここからが苦労話となります。
オランダの庭は砂が多いサクサクの土で、表面から浅いところは耕すにもそれほど苦労はしませんでした。したがって、牛蒡もすくすく真っ直ぐ伸びるものと思っていたのです。それが甘かった。まず一本目の牛蒡。地表から30センチ近くまでは太い牛蒡をこの目で見ながら掘り進んだのでした。しかし、真っ直ぐそのまま下に伸びていると確信しつつ見えている牛蒡に沿ってスコップをさらに真下に押し込むとザクっと何かを断ち切った感じが・・・。なんと、牛蒡がすぐその下あたりで水平方向に急角度に曲がって横に2本伸びていたらしく、その一本をスコップで断ち切ったのでした。そこで、今度は横へとまたまた掘る土が増えてしまったのです。残りの株も似たような育ち方をしており、後になるほど掘るコツをつかみ、うまく掘れるようにはなったのですが、結局悪戦苦闘の末、2時間以上かかってしまいました。すべてを掘り終え、5本分の切れ切れの貴重な牛蒡を収穫。掘っている時から、牛蒡の何とも言えぬ香りがしていました。肝心の味ですが、いとよし。労働の対価としては上々というところでした。

なぜこうなるのか?それはオランダでは地面の下にはかなりの厚さで泥炭層が広がっており、家などを建てる時にはその上に粘土質の土を敷いて地表からの火が入らないように言わば防火壁ならぬ防火層が作られているのです。野菜や草花などは粘土層の上に多少砂の多めの通常の土を入れたところに植えられるので問題ありませんが、牛蒡のように根が長く下に伸びるものは、場所により、硬い粘土層に遮られてそこで根を横に伸ばさざるを得ないということらしいのです。

因みに、オランダではキャンプ場などでもそうですが、地面での焚火は禁止されています。一旦泥炭層に火が入るとちょっとやそっとでは消火できないといわれます。泥炭地の上で焚火をするということは、薪の上で焚火をするのも同じということなのです。

    追憶のオランダ(29)牛蒡を植えたら” に対して1件のコメントがあります。

    1. t_nishi より:

      オランダで牛蒡を植えたらどうなったか?
      まっすぐ真下に伸びず横に曲ったその理由が泥炭層で、「地面での焚火は禁止されているという」そんな話まで展開されるという・・・。
      こんな話、いったいどこで聞けるでしょうか?
      こんなことを書いている本をどこで手に入れられるでしょうか?
      ハイムのひろば文芸館ならではのことでしょう。
      じつに面白い、楽しいことです。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です