追憶のオランダ(62)乾いた雨
「乾いた雨」とは随分おかしな表現だと思われるかもしれません。しかし、感覚的には私にはそう思えたのです。日本の雨はどんなに小降りの雨でも、濡れるとなかなか乾きにくい。それは雨が降る時には湿度が高いから簡単には乾かないという当たり前の理屈です。
しかし、オランダで感じたのは、少々雨に濡れてもすぐ乾いてしまう、というよりも、乾いた雨が降っているのではと思える程なのです。少し表現が極端ですが、そんな感じなのです。ですから、外出していて途中で雨が降り出しても、オランダでは日本のように誰も走り出したりしません。決して急ぎ足にもなりません。ましては傘を開く人など殆ど見ることがありません。降る雨の中をそれまでと同じく平然と何事もないように歩いて、建物に入ると上着をコート掛けに掛けるとそれでおしまい。今度外に出る頃には、さっきまで降っていた雨も上がっているし、その上着もきれいさっぱり乾いているのです。
天気が非常に頻繁に変化するオランダでは、春・秋の季節でも、一日のうちにすべての気候が目まぐるしく入れ替わり立ち代わり出てくることがよくあります。春なのに革ジャンが欲しいと思っていたら急に暑くなり半袖で十分なくらい気温が上がったり、突如大嵐になったりと。時には、雨もみぞれもザット来ますが、決して長降りはしません。ということで、着るものを何にするか非常に困る時があります。したがって、我が家でも着る洋服は年中すべてのものをいつでも着られるようにクローゼットにつるしてありました。衣替えで、季節ごとに揃えて、後は仕舞っておくということは一切ありませんでした。夏でも半袖の上に革ジャンというのもざらにありました。
そう、乾いた雨で思い出したのは私が育った札幌。内地(当時、道産子―ドサンコは津軽海峡以南のこと「内地」と呼んでいたのですが、いまだにそう呼びますか?)の雪は湿っているけど、「北海道の雪は乾いている」。雪の玉を作ろうとしても手の中でなかなか固まらない。雪が降りしきる中を歩いていても、誰も傘なんかさしていない。建物にはいって、体に降り積もった雪をパサパサっと払えばそれでおしまい。何か、オランダの乾いた雨と似ているとは思いませんか。