追憶のオランダ(68)砂地で傾く建物
傾いているので有名なのは何といってもイタリアのピサの斜塔であろうが、オランダでも同様に傾いた古い建物があちこちで見られる。それも高い建物で、教会の尖塔などが多い。かのフェルメールが葬られているデルフトの旧教会の尖塔(写真左)、北部のレーウワーデンの教会も見事に傾いて立っている。この教会は16世紀半ば、建設中から傾き始め、その後補正しながら立てたものの、最後に取り付けるはずであったゴシック式の高い尖塔は取り付けられることなく未完成で終わっている(写真右)。このように高い建物が傾くのは明らかに地盤が弱い砂地だからだ。また、傾いているのは教会だけでなく、アムステルダムの中心地にある16-17世紀に建てられた建物はよくみると微妙に傾いているように見える。実際は左右の建物同士でお互いにもたれ合っている感じもする。それとは別に、建物はよく見ると僅かではあるが正面手前の方に前のめりになっているように見える。しかし、これは真っ直ぐ建てたものが前に傾いたわけではなく、建築当初からそのように建てられているものらしいのだ。なぜ、そうしたのか?それは最上階の部分に大きなフックが付いた梁(はり)の一部のようなものがつきだしており(写真下)、それとも関係している。それぞれの建物は大体が5-6階と高いものが多いが高さの割には建物の間口が狭く、内部の階段などは非常に狭く作られている。上の階に階段を使って家財道具などの大きなものを運び上げるにはあまり適していない。そこで、荷物を梁に付けられた大きなフックにロープをかけて上まで引き上げ、そして正面に面した窓から室内に入れるように考案されているとのこと。そのため荷物が正面の壁に直接ぶち当たらないようにわずかに前に建物自体を傾けて建てているのである。このことを知らずに、オランダの古い建物は随分傾いているなあと思ったものだ。知ってしまえば、なるほどという話。
平戸に再建されているオランダ商館にも、もっとしゃれたデザインですが荷揚げ用のフックが取り付けられていました。けれど壁が傾いていたという記憶はありません。割と面が平面的なデザインの建物だからかな?けれどとても美しい建物です。