追憶のオランダ(80)バケツ入りの豆腐
またまた日本食材の話で恐縮だが、日本から生のままで運べないものがある。もちろん冷凍もできない。それは豆腐。海外で生活していて日本人はやはり豆腐が恋しくなるようだ。しかし、冷ややっこで食べられる豆腐を日本からそのまま取り寄せることは難しい。今ではそれも可能なのかもしれないが、当時は難しかった。そこで日本の食品会社が考えたのが、粉末の豆腐粉、これを使って本物に近い豆腐を作れるのだ。それともう一つが、牛乳パックのように紙パックに入った生の豆腐、これはパックをあけるとスルッと生の滑らかな豆腐が出てきて、十分冷ややっこでもおいしく食べられる。ということで、もっぱら豆腐粉による豆腐かパック入りの豆腐を愛用していた。
それがある時、友人経由耳寄りな情報が入った。本物の豆腐をオランダで、しかもロッテルダムの近くのパーペンドレヒトという町で作っている人がいるという。さっそく、試しにその友人に頼んで買ってきてもらった。届いたのは、4-5リットルくらいはあろうか、プラスチックのバケツのような入れ物に、白い豆腐がいっぱい入っている。
蓋を取った時から豆腐特有の大豆の香りがする。一目で、これは豆腐だと思った。
さっそくスプーンで掬って一口、やはり本物の豆腐だ。むしろ、日本でそれまで買っていたパックに入った市販品よりも本物に近いと思ったくらいだ。どんな人が作っているのか尋ねると、日本人ではなかった。なんと中国の人だとか。なぜ、このような日本の豆腐を中国人が作るようになったのか理由までは聞けなかったが、何度か友人に頼んでこの豆腐を買うことになった。しかし、何しろ3人家族には4-5リットルは多すぎる。いかに豆腐好きでも、毎食食べるわけではない。また、保存剤を使っていないこともおいしさの秘密である反面、日持ちがしない。一度は残してダメにしたこともあった。また、この人も注文を聞いてある程度まとまったらその時々に作っていたようだ。だからいつもほしい時に手に入るというものでもなかった。さらに、いつもいつも友人に頼むわけにもいかず、また近いとはいえ、豆腐だけ買いにパーペンドレヒトまで車を走らせるのも、ということでいつの間にか簡便なパック豆腐に逆戻りしていたのだった。でも、あれは確かに本物の豆腐だった。