オランダ点描(9)山
オランダに山はありますかという質問には答えにくいですね。ですが、オランダの海抜最高地点はどこですかと尋ねられれば、南部のリンブルフ州にあって、海抜は320m強ということになります。ただし、北部から比べるとドイツ国境に近い南部は丘陵地帯で少しずつ地面全体が高くなっているので、その海抜最高地点(写真左)は頂上らしさも感じられず、丘と呼ぶにも少々気が引けそうです。日本もそうですが、山には特に定義はないので、わずか数メートルでも地域の人が「○○山」と呼ぶものが日本にもたくさんあります。だから、オランダ人がこれは山だと言えば、こちらはそうですかということになるんでしょうね。
それは別にして、オランダには山を意味するBerg( ベルフと発音します)を使った「・・・ベルフ」というスタイルの名字が意外と多いのも面白いことです。例えば、会社の同僚にもSchaberg (スハベルフと発音)Stunnenberg(スツネンベルフと発音)という人物がいます。また多い名前ではVan den Berg(ファンデンベルフ)というのがあり、そのままの意味では「山出しの人」ということですが、日本流で言えば、山本さん、山中さん、はたまた山上さんとでも言ったところでしょう。
16世紀ごろからのオランダの絵画は風景を題材にしたものが多くなりますが、その絵には結構険しい山が描かれています。あたかもヨーロッパの他の国の山のある景色を羨むような何か強い情念を感じられます。オランダにもこういう山があればいいのに、と言った感じでしょう。昔のオランダに生まれた人の大半はほとんど山を見ずに一生を終えたことでしょう。隣の国のドイツ人が今でも夏になると海を求めて、西へ西へと北海を目指しオランダに押しかけますが、彼らも大陸のど真ん中で海からは遠く、一生海という大きな塩辛い水たまりを見ることなく一生を終えたかもしれない、それと似たことがオランダの山への憧れであったのでしょう。
ある時、オランダ人とイギリス人と私の3人で、食事のあと雑談をしていて、オランダ人が自国の一番高い「山」について話始めたら、急にイギリス人が話を遮り、言うことには「それは山(mountain)とは言わない、丘(hill)でもない。単なる土盛り(mound)だ。」と。野球のピッチャーマウンドと同じ感覚だということを言いたかったようです。横で聞いていておかしくなったのを思い出しました。
今私が住むロッテルダムの北の郊外、かなり広い荒地に下から30-40mくらいはありそうな小高い丘のようなものがあります。低いながらも丘があるではないかと思ったのですが、これは自然物ではなく人が作ったものだそうです。第2次世界大戦で、ドイツ軍の空襲でロッテルダムはほぼ壊滅し、その時のレンガやら瓦礫をこの場所に集積して山にしてしまったのです。今では、夏でも人工スキーができるそうで(冬はスキーができるほど雪は降りません)、頂上までの階段と照明が整備されています。この程度の高さであっても、周りにほとんど障害物がなく真っ平だと頂上では爽快な気分を味わえます。