新加坡回想録(46)ドリアン

ドリアンは、日本ではそれほど馴染みのない果物ですが、「果物の王様」とも呼ばれ、栄養が豊富、甘みの強いねっとりとした果肉、そして何より独特の強烈な臭いなど、話題に事欠かない東南アジアの果物です。

特にその臭いは時に「生ゴミの臭い」とも形容され、現地の人でも好き嫌いが別れます。その強烈な臭いから、東南アジアのホテル、飛行機、電車にはしばしば「持ち込み禁止」と表示されています。

今、タイから日本に空輸されるフレッシュ・ドリアンは、品質・サイズにもよりますが、6000円~1万円前後しているのではないでしょうか? 冷凍ものならネット通販で500gが4000円くらいであるようですが。いずれにしても相当な高値です。

シンガポールに住んでいたころ、道端でリヤカーのようなものに積まれたドリアンを時々買いました。35年ほど前の話なので記憶がはっきりしませんが、確か10~20S$(シンガポールドル=当時約60円)だったと思います。

御存じの通り、あの強烈な匂いでつとに有名ですが、私は、最初ホヤでも食べられなかった程なので、ドリアンはとても食べられませんでした。日本でいうところの「くさや」のような感じでしょうか。好きな人はとことん好きで、匂いが漂ってくると、食べたくて食べたくて仕方なくなるようです。

そのドリアンですが、一度だけ仕事で取り扱ったことがあります。当時、シンガポールで有力な日本のデパート「Y」がブルネイでも展開しており、何か新しい仕事ができないかと訪問しました。食品関係なら何でもやるつもりで商談した結果、ドリアンをタイからブルネイに輸出することになりました。

さて、仕入れルートを確保するためタイのドリアン農園を訪ねることになりました。バンコック支店の協力を得て一面ドリアンの木が並んだ農園に足を踏み入れましたが、不思議とあの匂いがしませんでした。熟して発酵することであの匂いが出るのだろうが、農園では未熟なので匂いがでないのではと勝手に想像しました。

後になって、匂いの原因を調べてみました。遺伝子解析によると、臭いの原因はメチオニンガンマリアーゼと呼ばれる酵素によるものと判明しているそうです。これにより、ドリアンが成熟する過程で揮発性の硫黄化合物が発生、独特な臭いを発するようになります。研究者たちによると、この臭いは動物を引き寄せ、種を広範囲に運ぶ役割を持っているといいます。 

ドリアンの好きな人は、この話を読んだだけできっとよだれをたらしていることでしょう。

(西 敏)

 

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