シンゴ旅日記インド編(103)ワテは運転手(耳鳴り)の巻
ワテは会社の運転手でんねん。ご主人は日本人の社長さんですわ。
社長さんな、最近耳鳴りがひどいちゅうんで、ワテが病院を紹介しましたんや。
プネで一番のエエ病院ですんやで。
Ruby Hall Clinic(www.rubyhall.com)って言いますんや。
ワテが昔、肩の骨を外した時や、ちょっと前にKidney Stoneで面倒見てもらったり、それに、去年、営業マンがバイクからコケた時も連れてきた病院ですわ。そやそや、社長さんの前任者もゴルフで腰が痛いちゅう時も、お世話になったんでっせ。
そこの病院に、ワテの姉さんの旦那さんがX線の技師で働いてまんのや。
ワテの紹介やったら、待たんで、すぐに見てもらえまんのやで。
そんで、火曜日の夕方、会社終わってから社長さんとその病院に行ったんですわ。
ワテはちゃんと義兄(にい)さんに前もって連絡取ってましたがな。
6時半ちゅう時間ですわ。Ruby Hall Clinicな、24時間営業の病院なんですわ。
お願いした耳のお医者さんは夕方4時から8時勤務なんですわ。
そんで、E.N.T.の待合室に行きますとな、ちゃんと義兄さんが来て、待ってくれてましたんや。
普通なら、予約して一日かかるんやけど、ワテらは、ちょっとだけ待つだけですわ。
そやそや、E.N.T.って分かりますやろ、Ear、 Nose & Throatですがな。
なんでも、日本では耳(じ)鼻(び)咽喉(いんこう)って言うそうでんな。
なんで『みみ、はな、のど』って言わへんのでっか。
日本人やのに中国の発音するのがかっこエエみたいでんな。
そんで、ワテらすぐに呼ばれたんですわ、ドクターに。
入って行きましたがな、部屋に。一緒ですわ、ワテも義兄さんも。
そんでね、お医者さんから、いつからや、どんな具合やちゅう、質問があって、器具を使って、耳の中を見たあと、ドクターが隣の部屋に行って何か持ってきましたんや。
あれっ、見たことあるわ、たしか、学校の音楽室や。Tuning Forkや、音叉やおまへんか。
ドクターな、音叉をコーンと机で叩いて、社長さんの耳の穴に当てて、聞こえるかちゅうて聞きましたんや。社長さんな、聞こえますって答えましたわ。そりゃ、そうやろな。
そしたら、今度は、コーンと叩いて、社長さんの耳の後ろにあてましたんや。
聞こえるか?聞こえません。でっせ。
その次はコーンと叩いて、社長さんが坊主にしはった頭のてっぺんに立てましたんや。
そんで、どっちの耳からやちゅうと、社長さんが、左の耳からですちゅうて答えましたわ。
検査はそんで終わりましたんや。
部屋に入ってから、5分も掛ってないんとちゃいまっか。
次の患者さんが、もう部屋に入って来て、椅子に座って待ってまんのや。
普通は外で待つんと違うんかなあ。
帰りがけのドクターとの会話ですわ。
ドクター ;何歳ですか?
社長さん :60歳です。
ドクター :原因はage and nerveです。
ここに書いた薬を寝る前に飲んでね。
そんで、今日は時間がないから、出来んけど、明日に聴力検査に来てね。
それでおしまいですわ。社長さんな、Age(加齢)は分かるけど、Nerveって何やって、ドクターにしつこい位聞いてましたで。
ワテが、そりゃ、神経でんがな、血管でんがな、ちゅうて説明したんやけど、納得できんみたいやったですわ。
外へ出ると、社長さんな、音叉を頭に乗せられたときは自分がギターになったような気分になったって言ってましたわ。
そんで、薬局で薬もらうとね、5粒で6ルピー(9円)でしたわ。
ドクターの検診料は500ルピー(750円)でしたんやで。
社長さんな、こんな6ルピーでもうかるのかいな、領収書の紙代にもならんのやないか、ホンマにこの薬は効くんかいなって言ってましたで。
そして、最後には、さすがジェネリックの国やちゅうて感心してはりましたわ。
そんで、車に乗ってご帰宅ですわ。
でも、明日はワテは営業マンと二泊三日でコラプールに行くことになってましたんや。
そんで、社長さんに、義兄さんの携帯番号を紙に書いてあげて、明日、10時半に病院に行ったら、義兄さんに連絡して、検査を受けてくださいって言ったんですわ。
社長さんな、一人で行くのは不安やて言わはりましたんや。
そんで、明日は、うちの会社でしょっちゅう使っておるレンタカー会社で、社長さんも、顔見知りのジャヤンさんが来るよってに、彼にも義兄さんの電話番号を教えておきますんで、病院へジャヤンさんが連れて行くさかい、大丈夫ですよって伝えましたんや。
そんで、次の日ですわ。水曜日の朝でしたわ。
ワテは営業マンと朝の5時にプネを出て、コラプールに向かってましたんや。
8時半ころに社長さんから電話が掛かってきましたわ。
社長さん :おはよう、今日の運転手はジャヤンさんではありません。彼の弟です。
その弟は田舎から一ヶ月前に出ていたばかりで、英語が十分に話せません。
今日の私の病院での検査は、あなたがプネに戻って来てから行くことにしましょう。
来週でも構いません。あなたの義兄さんに今日はキャンセルするように伝えてください。
って言わはったんですわ。しょうがおませんわ。その旨を義兄さんに電話しましたがな。
そんでワテは翌日の木曜日の夜にプネに戻ったんで、金曜日の朝に社長さんを迎えに行きましたわ。
そんで、社長さんに病院での耳の検査はいつにしましょうって、聞きましたらな、いつでもエエよ、っていわはるんで、すぐに義兄さんに電話したら、明日の10時半からならエエよって返事でしたわ。
そんで、翌日の土曜日ですわ。
その日は半ドンやのうで、全休の土曜日でしたわ。
社長さんには朝10時に迎えに行きますって言ってましたけど、例によって遅れて、10時20分ころに迎えに行って、そして病院に行きましたんや。
E.N.T.の待合室には、また、義兄さんが来てくれてましたんや。検査まで、時間があるちゅうんで、ワテと社長さんはCoffee Shopでコーヒーとパンの朝食と取りました。
そして、待合室に戻ると、検査室に入ることができました。
検査室は狭いとこでしたわ。
でも、ワテも義兄さんも社長さんと一緒に入りましたわ。
耳の検査やさかい、音がせんようにサンダル脱いで入るんでっせ。
検査する人は女のひとでした。社長さんは狭い部屋に入れられてヘッドフォンをかけられて、音が聞こえたら手を上げてって言われました。
社長さんが、その時に、右の耳で聞こえたら右手、左の耳で聞こえたら左手を上げるのかって聞いたんやけど、女性検査官は、右手だけで結構ですちゅう、つれない返事でしたわ。
その狭い部屋に小さな窓がついてて、そこから中の様子がわかるんですわ。
部屋の中から、その窓を通して外を見ると、暗ろうて、あまりよく見えんみたいでしたわ。
そして、なんや、女性検査官は機械見ながら操作してましたわ。
ワテらには社長さんの様子が見えんかったよってに、何してはるのか、ようわかりませんでした。
検査が終わって、社長さんが狭い部屋から出てくると、検査官はなんやら書いた書類をみせて、加齢やなくて神経です、この書類をドクターに渡して、診断してもらってくださいと言わはって、終わりでしたわ。そんで、待合室に戻って、義兄さんが受付でドクターの都合を聞くと、午後4時に来てくれとのことでした。社長さんは、今日は土曜日で、メイドが来て部屋を掃除するけど、それは2時ころからで4時には終わってるから大丈夫やちゅうことでした。そんで、一旦帰って、出直すことにしましたんや。
義兄さんにお礼を行って一旦社長さんをアパートに送りましたわ。
そんで、4時にまた、社長さんをお迎えに行って病院に行きましたわ。
車の中で社長さんが、これを義兄さんに渡してくれってお札をワテにくれたんですわ。
要りません、要りません、必要ありませんって答えたんですけど、社長さんは、あかん、是非とも受け取ってくれって言わはったんで、ハイ、確かに義兄さんに渡しますってワテは受け取りましたわ。
車を駐車場に置いて、裏口から入っていくと、守衛所みたいなところにシーク教徒が二人立ってましたんや。社長さんが、あの二人は頭に怪我してんのとちゃうかいうて冗談を言わはりますんや。
そやかて、二人とも白いターバンを巻いて立ってましたさかいにな。
E.N.T.の待合室へ行くと、しばらくして、義兄さんが来てくれました。
義兄さんは、この一階の入り口付近が仕事場なんですわ。今日は手術がのうて暇そうでしたわ。
義兄さんが受付で聞くと、ドクターは別棟で手術中とのことでした。
そんで、三人でCoffee Shopで時間をつぶしましたわ。
社長さんは義兄さんに、X線技師ってどんな仕事ですか、週に何回ぐらい手術に立ち合うのですか、この病院はインドのほかの町にも支店があるのですか、ベッド数はいくつくらいですか、心臓の検査もしてくれるのですか、なんていろいろ聞いてはりましたわ。
おしまいの方では、日本のことわざに『歳を取って耳が遠い人ほど、長生きする』っていうのがあるんで、ワシも長生きの口やろなって言ってはりましたわ。
5時になったんで、待合室に戻ると、まだ、ドクターは手術中らしゅうて、待たされましたんや。
義兄さんが手術室に電話したり、終いには手術室を見てくるちゅうて行ってしまいましたわ。
社長さんは待合室の壁にかかってる、ドクターの名前や勤務時間を面白そうに見てはりましたわ。
ワシを診てくれてるドクターはどの人や、ドクターたちの勤務時間が不規則なんは、どうしてや、副業でもしてるのかって、ワテに聞くんですわ。
そうなんですわ。この病院は私立病院やさかい、お医者さんが自分の病院と掛け持ちなんですわ。公立はあきませんで、その病院以外でお仕事ができませんのや、それに公立の方は給料はグーンと安いんですわ。サービスも悪いんでっせ。
そりゃ、来る患者が貧しい人ばっかやからですわ。
結局、6時頃にやっとドクターが来て、検査結果を見て、加齢です。違う薬を出します。朝晩飲んでください。夜耳鳴りがひどくて眠れないときは、音楽を聴きながら寝てくださいって言わはりました。
そして、火曜日にもろた診断書に新しい薬名を追記してもろて終わりでした。あっちゅう間ですわ。
本当は、ワテも家族からイビキがひどいって言われてましたんで、社長さんのついでに診てもらおうと思ってたんですわ。
でも、その検査をするには30分くらいかかるんで、今日は時間がないんで、また来るように言われてしまいましたんや。
そんで、また薬局へ行って薬をもらうためい、義兄さんが窓口で中の人と何か話してたと思ったら、ワテに、ここはあかん、外の薬局に行こうと言いましたんや。
どうしたんやって聞くと、薬局の女の子が新人で、ドクターが書いてくれた書類は火曜日の日付やから、もう一回、ドクターのところに行って、今日の日付に書き直してもらってくれって言ったそうですわ。
義兄さんはドクターは忙しいから、面倒かけらんので、外の薬局に行こう、そこは知り合いばかりやから、薬を出してもらえるちゅうんですわ。
そんで、外の薬局で薬もらったんですわ。今度は40粒で533ルピー(800円)でしたんや。前は一粒1ルピー、今度は一粒13ルピーですわ。それにしても安いんかな、これって。
社長さんが、やっぱり病院も商売なや、初回は6ルピーで今度は533ルピー払わなアカン仕組みになっとるちゅうて笑ってましたわ。
そんで、帰りの車の中では、ワシの耳鳴りの原因のNerveは君たちスタッフやなあ、君も、その原因のひとつやって言わはりましたわ。
経理担当や営業マンは社長の耳鳴りの原因や思うけど、やっぱ、ワテも原因やろか。
そんで、社長さんはアパートで車から降りるときに『これは今日のお礼や』ゆうて折りたたんだお札をくれはりましたわ。そやけど、耳鳴りしたら音楽聞いて寝なさいちゅうのは、薬が効かんちゅうことやろか。
丹羽慎吾