人物画を描くためのヒント

人物画を描く為のヒント

1.画題としての人物
かつて作家の藤本義一さんは「男の顔は領収証」と言いましたが、特に中高年の顔にはその人の生き様が滲み出ていてこれを描くという事は単に象形を写し取る以上の面白さがあり、描きながらついその人の生い立ちまで想像してしまいます。

又、生前に遺影を頼まれたこともありますが、隅っこに写っている小さな写真見つけて拡大するよりは絵にした方が余程生前の姿を映し出すことが出来ます。

2.身辺の絵の環境
思えば随分昔から似顔絵は身近にあったように思います。

例えば、退屈な営業会議の時などよく同僚の似顔絵を描いて時間を潰していました。(組織変更の時)

神戸にボナール展を見に行った時、ボナールの日記に簡単な挿絵が入れられているのを見て、字の下手だった私はこれに飛びつきました。「絵が入っていれば字を読まなくてもその日の出来事が即再生出来る。」当時、字の練習も兼ねて筆ペンを使っていましたが、これで挿絵を描いてその上にソフトパステルで薄く着色、日記を描く事が楽しくなりました。

 

或いは、お客様の工場内は「撮影禁止」が普通ですが、納入した設備の不具合を修理してもらう為に簡単なスケッチを添えてレポートすることもよくありました。

3.似顔絵
写真機が無かった頃、宮廷画家が多くの肖像画を残していますが、その中にグリッドを仕込んだ望遠鏡の様なものを覗きながらデッサンしている資料を見たことがあります。(詳細は別記事で)shousai私も骨折で入院していた頃、映画雑誌の写真に縦横のマス目を引いてこれを写し取ると言うことを何度かやりました。

又、モディリアーニの絵を見た時は衝撃は今でも忘れられません。アフリカのお面からヒントを得たと言う画風は、デフォルメされているもののキッチリと対象を捉えており、何枚か習作を描きました。子供が出来て狭い社宅に充満する油絵の臭いにこれはマズイと思ってそれ後油絵は諦めました。

4.お絵かきソフトとの出会い
いつも身近に絵がありましたので、定年退職後はアニメの様な分野で仕事が出来ないかと考え「スタジオジブリ展」等も見に行きました。そこではアニメの制作の過程も紹介されていましたが、宮崎駿監督が構想するアニメの一場面(絵コンテと言います)を基に背景画を描く人、キャラクターを描く人など多くの人が分業しながら仕事を進めてゆきます。ジブリではキャラクターの絵を筆で透明フィルムに何枚も描いてこれを背景画に重ねて撮影しながらパラパラ漫画の様な形で動画を作る様子が展示されていました。

偶々、中国の友人の親戚がアニメを制作していると言うのを聞いて見学させてもらえる機会ができ、そこでお絵かきソフトと出会いました。その会社はPR映画の制作が専門でアニメを制作する部門もありました。沢山の女の子がパソコンの前でキャラクターのいろんな動作・表情を作っています。ベースの絵を元に笑っている顔は目尻を下げて唇の端を上げる、怒っている顔はその逆。その早いこと、影付けも一発で仕上げる。とてもこの娘達と競争は出来ないと諦めましたが、そこで使われている絵画ソフトとその手法をいくつか知ることが出来ました。

私の水彩 中国アニメーターの絵

絵画ソフトで使われている「レイヤー(ジブリの透明フィルムに相当する)」と言う概念も仕事上CADを使っていましたので直ぐに理解できました。原画をベースに新しいレイヤーに絵を描き、元のレイヤーを隠せば原画を少し変えた絵が取り出せるのです。この手法を使えば、写真そっくりの似顔絵も作れますし、服の模様までなぞることが出来ます。然も着色も自在、筆の太さや透明度も自由に設定できます。(①のレイヤーでラフスケッチをして②のレイヤーで清書、①のレイヤーを隠すときれいなスケッチが得られ、絵の練習にも使えます。)

これで何枚もの絵を描きましたが、写真をなぞっているだけでは面白くもなく、これを使って皆の集合絵を作ろうと考えました。写真で会場全体を写すことは不可能です。遠近感が大きくなり過ぎて近くの人は大きく、遠くの人は小さくなり過ぎます。又、写真は一瞬なのでその時下を向いている人、後ろを向いている人などは気の毒です。各場面の良い写真だけを集めて会話が弾んでいる様子に、盛り上がっている様子にまとめると皆が喜んでくれました。以下にその手法をご紹介します。

※ 絵画ソフトは、Corel社のPainter Essentialsを使っています。WindowsXPの頃は、タブレットを買えば付属で付いていた様なソフトですが、今はNetで個々のシリアル番号が管理されています。

5.集合絵の描き方
1)スナップ写真を沢山摂る。

下の絵を見比べて下さい。左の絵は写真数枚を渡されて描いたもの。皆がカメラを見て並んでいる写真をくっつけただけ。これでは盛り上がりを表現できないので、沢山、然も自然なポーズを得るために相手に気付かせない様に隠し撮り風に撮影、焦点が合っていないのも見越して100枚くらい撮ります。

2)写真を選択する。
大体の構図を想像しながらその人らしいスナップを選択します。どうしても顔の向きが合わない時には写真を左右反転させることもあります。

3)写真をトレースして個々の似顔絵スケッチを作る。
大きな絵を縮小すると輪郭線は細くなります。後の配置を考えると、写真の大きさ(画素数)を同じくらいにしておくと便利です。写真サイズの拡縮は殆どのカメラソフトに付いています。

 

4)似顔絵スケッチを並べる。
絵画ソフトのレイヤー機能を使えば簡単に出来るのかも知れませんが、私は、パワーポイント上に並べ、補助線を使いながら少しの遠近感が出る様、拡縮します。
※パワーポイントで貼り付けると重なっている部分が写りませんので「大きさだけ確認」できたら、全身が印刷出来る様に配置し、出力されたものをハサミで切り取って貼り付けると言う原始的な手法も使っています。この時使う糊は、3Mの「くっつかない糊」を使うと便利です。

5)A3に出力する。
この後、着色に入りますので、なるべく大きな紙に出力するのが良いのですが、コンビニで出力できる最大のA3に白黒プリントします。

6)背景を描き加えて着色。
壁や掛け軸、皿や料理、ビール瓶などを描き込み全体のバランスを取った後、水彩絵の具で着色します。絵画ソフトで着色しても良いのですが、水彩の滲み、ボカシなどの風合いを残すために細い筆を使って出来るだけ細部まで塗り込みます。天井や照明、料理やコップ、ビール瓶などを描き加え、着色したものです。

7) 仕上げ、微調整。
着色されたA3絵をフルカラーでスキャンしてjpgで取り込みます。絵画ソフトで特に顔の部分を補正します。パソコンを2台並べ、一方には元の写真を拡大、一方には絵画ソフトの着色部を拡大、見比べながら補正します。(色がはみ出ていたら消す、影の部分の調整、髪の毛、眉毛、歯など)この様にすることで眉毛1本まで写し取ることが出来ます。

※光が当たっている部分は、白色を塗り込んでも良いのですが、消しゴム機能で消しとるのが簡単で、自然です。(ビール瓶や衣服のシワの部分などを消す。)

ライトアップ、背面ガラスに反射する光、衣服の反射部など消しゴムを使用。

視線の調整
共通の話題で盛り上がっている絵ではお互いの視線を合わせておく必要があります。この為、目の玉を多少動かす事も必要です。

さあ、これで思い出の一コマを漫画で残して下さい。

土谷重美

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