おぼろげ記憶帖 03 晴れ着(1)
大阪では数え年13歳の時に嵐山の松尾大社へ「十三まいり」のお参りする風習があります。
小学校6年生。「紐落とし」ともいって子供の着物の肩みやげとからげを解いて大人と同じ着物の着付けにします。子供から大人への儀式なのでしょう。その着物を着て私は祖父母に連れられて京都へ行きました。知恵を授けて頂くお参りで、家に帰りつくまで後ろを振り返ってはいけないのです。折角頂いた知恵を落としてしまうからなのです。
その後、日をおいてまたその着物を着てもう一人の祖母の所へ一人で出掛けました。これは無事に育ったことの報告とお祝いなのでしょう。二人の叔母も来ていて「よく来たねえ。いいおベベ(着物)を作ってもらってよかったねえ」と褒めてもらったことを覚えています。今でいうJRで駅の数4駅の距離。そう遠くないのですが何しろ雑踏の大阪駅で乗り換えて行くのです。今なら12歳の子供を一人、しかも着物姿で出掛けさせるでしょうか? 何度も行って道順は解っていますが、「気を付けて行っておいで」と送り出して無事に行き着くようにと心配しても近頃に起こりうる諸々の危険については全く心配していなかったようです。子供から大人へ移り行く試練だったのでしょうか? それとも嫁姑、小姑との気持ちの持ち様であったのでしょうか? ずっと後に嫁してからふと気になった事柄でした。
もう一つのお参りは芸事の上達をお願いするお参り。天満の天神さんは学問の神様ですが本殿の裏手に別のお社があります。そこへ節分の日のお参りするのです。家を出て帰り着くまで喋ってはいけない。家から天神さん迄歩いて10分余りの距離ですがそれはなかなかに難しいことです。お稽古ごとのお師匠さんに教えられ、人けの少ない夕方にこれも一人で出掛けました。そして無事にお参りを済ませました。
昭和28年(1953年)から29年に掛けてのことです。古きよき時代であったと懐かしく思い出されます