追憶のオランダ(30) コロッケ
コロッケと言えば、日本でも庶民的な食べ物の一つです。ジャガイモに牛のひき肉で作ったオーソドックスなものから何を一緒に入れるかでいろいろな変わり種コロッケが楽しまれています。日本ではどちらかというと、コロッケはご飯のおかずといった感覚ですね。また、形についても日本では小判型あるいは俵型が多いように思います。しかし、オランダで一般的な形は日本のとは少しちがってもっと細長く、衣が日本のパン粉とはちがっていて固くカリカリッと揚がっています一般的な(写真上)。
オランダではコロッケとは言わず、クロケットという言い方ですが、ここではあえてコロッケで話を進めます。これは庶民の好物の一つですが、日本のように副菜(おかず)ではなく、スナックとしてなのです。そして、その売り方も非常に興味深いのです。というのは、駅などの一角でよく見かけるものはコロッケの自動販売機(写真中)。そうです、自動販売機で売られているのです。いくつも小さな小窓になっているそれぞれの横に硬貨を入れ、自分で扉を開いて中のコロッケを取り出すというシステム。基本的に日本ほどに自動販売機自体の設置が無いにも拘わらず、なぜかコロッケの自動販売機だけはたくさん設置されていて意外な気がします。
自動販売機といっても対面販売をしていないと言うだけで、日本で見る清涼飲料水やたばこなどの自動販売機とは少しちがっています。自動販売機の向こう側ではせっせとコロッケを作り揚げて、扉の向こう側からどんどん熱々のものを補充しているのです。このまるで下足箱のような販売機の向こう側が厨房なのです。チーズのはいったものなどは、とろーっとしているので何気なくガブリとやると口の中を火傷しかねませんので、要注意。旅行者が駅などでの初めてこのコロッケに出会うと、最初の印象が結構強く、意外にはまってしまうことでしょう。短い滞在期間でも何回かは食べることになるのではないでしょうか。
それと、もう一つ、このコロッケの兄弟分とも言えるものがあります。その名は、ビターバレン。こちらはカフェ・バーなどでビールを飲む時によく食べられるおつまみの一種で、丸い一口サイズになったものです。これも周りがカリカリに揚がっていて、ビールのつまみには最適。私などは夏場夕方テラス席で傾いた太陽の光の中でビールを飲む時は、つまみはこのビターバレン・チーズ・サラミ(チーズ・サラミもスライスではなくサイコロ状に切ってあります)。ビターバレンにはマスタードを付けて、爪楊枝で突き刺して食べるのがオランダ流なのです(写真下)。
オランダのコロッケ自販機、面白いですね。お金と品物の受け渡しを省いているわけで、どちらかというと、中野島の中安農園の、お金を入れて野菜を取り出す自販機に似た仕組みだと思いました。
ところでコロッケ、若いころに自分で作ってみたことがあります。
ひき肉と玉ねぎに塩コショウを振って炒めるところまでは、オムレツと同じ。
でも、オムレツが「フライパンでふわふわに卵を焼いて具を包めばおしまい」なのに対し、コロッケの方は「ジャガイモを茹でてつぶし、具と混ぜて丸め、小麦粉・溶き卵・パン粉をつけて、油で揚げる」。ずっと手がかかります。
なのに、どちらがご馳走に思えるかというと、言わずと知れたオムレツ。
その後コロッケを作ったことはありません。
確かに! 中安農園の自販機にも似ていますね。でも、中安農園の自販機の向こう側には誰もいません。違っている点は自販機の向こう側にせっせとコロッケを揚げている人がいて、常に新しいのを補充しているという点と、対面販売の場合の会話と直接の金銭授受がないという点。奇妙な自販機、これがオランダ。