追憶のオランダ(56)世界一短い挨拶
「あー」とか「おー」とかの感嘆詞でのコミュニケーションは世界中大体どこの国でもあると思います。これは言葉でのあいさつ・会話という以前のものです。
筆者がオランダに住み始めてすぐの頃、彼らオランダ人同士の会話の中でよく耳にする非常に気になる言葉(言葉というよりこれも感嘆詞のような感じだった)がありました。それは、どう聞いても「ダー」としか聞こえません。ある時、何を言っているのか訊ねて疑問は氷解。彼らは「Dag!」と言っていたのです。特にお互い別れ際に、必ずと言っていいほどそう言っているのでした。要は、英語流に言えば「Have a good day!」の最後の「Day」の部分だけ言っていたのでした。英語のDayは、オランダ語でDag。日本語表記にするのは難しいのですが、あえて書くと「ダーツハ」なのです。数回前の「ヒートホーン」でも少し触れましたが、この最後の「G」のオランダ語の発音がとても厄介なのです。喉の奥を擦るような音で、同じゲルマン民族である隣のドイツ人などもなかなかこの音は出しにくいと言います。昔(今もそうかもしれませんが)、アントニオ猪木が「1・2・3、ダー」というのをくりかえしていましたが、まさにそんな感じですが、もっと軽く明るく言うのです。これは言葉が大幅に省略されてはいますが、立派な、もしかすると世界で一番短い挨拶(会話)の言葉かもしれません。たったの一音。
そして、このDag!は筆者が赴任した時の引継ぎを受けた前任者の一人息子(まだ1歳そこそこ)が、手を振ってさよならの仕草をすると「ダー」と声を出して言っていたのを思い出しました。日本語が喋れないこんな小さい子がオランダ語で挨拶をしていたのです。今、彼は20台後半の年齢になっているはずですが、オランダ語を忘れず話しているでしょうか。因みに、彼の父親は歴代の駐在員の中でもオランダ語が話せる数少ない御仁でした。