ロックフェラーの素顔(2)

2)カイカット

カイカット(Kykuit)は、JDR晩年住んだ邸宅である。さらに、彼の孫の代までが、この家の主となった。この数年JDRについて調べていた私は、この大富豪が一体どのような大邸宅に住んでいたのか、是非この目で見たいものだと、ずっと願ってきた。

本年(2009年)5月、写真でしか見たことのないこの家の正面が見えた時、やっと念願がかなったことを実感し、不覚にも涙がこみ上げてきた。確かに、立派な家である。しかし、彼が築き上げた財力の大きさを考えると、むしろ控え目な大きさの家とも言うことができよう。

家の中は、金ぴかではなく、上質な絵(例えばピカソだけで100点以上を所有)、彫刻、陶器などが、計算しつくされた形で置かれていた。自らの富を誇示することを嫌い、できるだけ質素な生活を好んだJDRの考え方がこの家には、見事に表現されている。

ただし、敷地は非常に広く、4,000エーカー(約500万坪)あり、中には、JDRの趣味であったゴルフ場も造成されている。特に、庭園はすばらしく、かつては 100人以上の庭師が、毎日働いていたとのこと。現在でも、非常によく整備されており、この庭に彼の築いた財力の片鱗を見ることができる。

ロックフェラーの邸宅

ところで、カイカットは、ニューヨーク市の北、地下鉄ではタリータウンの駅の近くにある。かつて、私はこの近くに何度も出張で行ったことがあり、JDRの調査を始めて以来、「なぜあの時、この家に気付かなかったのだろう」と悔やんでいた。しかし、今回現地に行って、私が気付かなかった理由が解明された。

カイカットは、深い森に囲まれており、しかも非公開であったため、現地の住民の間でさえ、この家の存在は知られていなかったのである。カイカットが一般に公開されるようになったのは、15年前のことである。公開後の現在でも、勝手に内部を歩きまわることはできず、ガイドに従って見学することが求められる。一度に入れる人数は20名程度で、事前の予約が必要。しかも、3時間半にわたるカイカットの説明は、すべて英語で行われるので、日本人の観光ツアーには組み込まれることのない場所である。

庭園よりハドソン川を望む

齋藤英雄

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