シンゴ旅日記インド編(100)ワテは運転手(インド土産)の巻
ワテは運転手でんねん。ご主人は日本人社長さんですわ。
この社長さんな、年に何回か、日本に一時帰国されますんや。
そんでそのお土産を買うちゅうんで、この前の休みやった土曜日に、お供したちゅうわけですわ。
社長さんな、二年前に来られて初めて一時帰国しはった時は、サリーやら、パンジャブ・スーツをぎょうさん買って帰りはったんでっせ。
そやけど、ご家族の人からはそれらに興味を持ってもらえんかったんやて。
そんな、派手派手のモンを、誰も、よう着んちゅうのが理由やったそうですわ。
けど、娘さんたちが、友達にあげるちゅうて受け取ってくれたんやて。
そんで、この前帰った時に奥さんから、タンスの中にまだ残ってるモンが何着かあるって、聞かはったそうですわ。
その次の帰国の時はマフラーでしたわ。
お正月休みに帰らはったんで、絹や綿のマフラーが安いちゅうんで、これもまた、ぎょうさん買って帰らはったんですが、ご家族からの評価は前とおんなじやったそうですわ。
けど、マフラーを持ってなかった息子さんが二つもらってくれたそうですわ。
社長さんな、センスがないんですわ。
安ければエエ、ぎょうさん買えればエエちゅうタイプですわ。
なんせ、田舎育ちで、家族や近所の人、それにおじさん、おばさん、従兄弟が多かったんで、お土産は数で勝負する性格になりはったみたいですわ。
もっとも、社長さんな、自分のことを『日本の百円ショップ大好きおじさん』やって言ってはりますわ。
きっと、Penny wise and pound foolish(安物買いの銭失い)の典型でんな。
その次に、ぎょうさんお土産として買いはったんは食いモンでしたわ。
インド料理が日本では人気やちゅうんで、インドのレトルト食品を買って帰りなはったんでっせ。
いろんな種類のカレーや、炒めもんや、ベジやノンベジやちゅうて、会社の近くの商店の在庫がなくなるくらいに買って行かはったんですわ。そんで、これもアカンかったようですわ。
家族の人がインド料理や、エスニックやちゅうて食べてくれるかと思ったら、本場のインド料理は日本人の舌には合わんそうですわ。
このレトルト食品も、その次に帰国した時に、台所の隅にある箱にまだ残っておったそうですわ。
そやそや、去年は親戚にインドの映画が好きやちゅう子がいるのがわかって、インド映画のDVDや映画音楽をぎょうさん買って帰りはったことがありましたで。
そんで、会社にも持って行って若い子の人気取ろうと配ったけど、みんなそんなんイランちゅうて、断られたそうですわ。
社長さんな、そのほかにも、食後に口直しで食べるソーンフちゅうお砂糖でくるんだモンの詰め合わせとか、チャイのパックとか、甘いお菓子とか、ヒンドゥー教の宗教画とか、いろんなモンを買って帰らはったんですが、どれもこれも、家族や会社の人には喜んでもらえんかったらしいですわ。
そんで、空港でチョコレートを買ったり、バンコクでトランジットする場合には、空港の売店で香料とか、石鹸とか、仏像、唐三彩みたいな陶器のベンジャロンとかを買って帰らはるらしいですわ。
そりゃあ、そうですわな、インドのモンでせいぜい世界的に有名なんわ、ダージリン・ティぐらいなもんですわな。
そんで今回ですがな。
なんや知らんけど、奥さんからインド綿を買って来てくれって頼まれたそうですわ。
奥さんが知り合いにあげたいから縫っておらん、生地を買って来て頂戴と言われたそうですわ。
社長さんな、奥さんからインド綿の依頼が来る前は、石で作っった象で、体に穴が開いておって、その中にまた小さな石が入っとるちゅうやつを買ってこうと思ってたんやて。
しかし、石は重いし、前にシヴァ神のリンガを息子さんに買って、持って帰って、カバンを開けたら、真ん中の棒が割れておって、瞬間接着材でくっつけたそうですわ。
そんで、今度は何を買っていったらエエのか悩んではりましたんや。
社長さんな、火曜日の夜の便で帰ることになりましたんや。
そんで、その前の週の休みになる土曜日に買い物に行きたいって言わはったんですわ。
ワテにですわ、しょうがおませんがな、社長さんに、お付き合いするしか。
ワテが経理にエエ店がないかを聞きましたんや、そして、教えてもらったお店は狭い路地にあるんで車では行けませのんや。そんで、ワテが土曜の朝9時に社長さんのアパートにオートで行ってから、一緒に行きましょうって言いましたんや。
それに、金曜日と土曜日は社有車を車検に出してましたんで、どっちみち社有車では行けませんでしたんや。
この車検をする、せんについても、木曜日に社長さんとの間でちょっと、ひと悶着がありましたんやで。
ワテ :社長さん、火曜日にムンバイ空港にお送りするんで、車を明日金曜日に車検に出します。
社長さん :いつもどれだけの走行距離で点検に出しているのですか。
ワテ :5千キロ毎です。
社長さん:前回の点検はいつでしたか?
ワテ :二ヶ月前です。
社長さん:そんなに、頻繁に点検に出すのですか?
その度に部品を取り変えて、点検会社の言いなりにお金を払うのですか?
ワテ :仕方がありませんわ、1年間の保証が5千キロ点検をするちゅう条件ですさかいに。
社長さん :ちょっと待ってください。
社長さんな、日本人社員の一人を呼びはって、なんか質問して、その社員の人が席へ戻って、しばらくして、また、来はって、社長さんになんか報告にしてはりましたわ。
そしたら、社長さんが、ワテに、点検をしなさいって言わはったんですわ。
後で、その日本人社員の人に聞いたら、社長さんから、日本での車を点検する走行距離を聞かれたんで、本社に確認したら、3千キロ点検をしてるって連絡があったんで、そう答えはったそうですわ。
そんでやわ、社長さんすぐにOKを出しはったんわ。
そんで、社有車を車検に出したもんやさかい、金曜日は日本人の社員さんはオートで帰る予定してたんやけど、間がエエちゅうんですか、いつも使ってるレンタカー会社の社長さんが先月の請求書を持って来たんで、その帰りを利用して三人さんがアパートに送って貰いなはったんですわ。タダですわ。
ワテですか。オートで帰りましたで。
けど、来週の月曜日と火曜日に休暇を取って、15日の独立記念日と合わせて5連休を取りよる経理が仕事を終わるのを待って、事務所のシャッターを降ろして、経理がロックした鍵を、ワテが受け取って帰ったんですわ。
土曜日ですか、社長さんには9時に行きますって約束してましたけど、社長さんの家に着いたんは、
10時ちょっと前でしたわ。
けど、社長さんな、前みたいに、なんで約束時間が守れんのやちゅうような、すねたような顔をしてませんでしたで。きっと、インドの時間感覚ちゅうのを会得しはったんやろね。
そんで、ワテが乗って来たオートに一緒に乗らはって、クリシュナ通りに向かったんですわ。
その日は、買いもんの他にマネーチャンジャーにも行くことになってましたんや。
社長さんな、今回はルピーを円に替えて持って行くちゅうんですわ。
ルピーが毎日、安うなっていくんで、心配にならはったんやろか。それともヘソクリやろか。
そんで、前の日の金曜日に、ワテがマネーチェンジャーに電話して、社長さんが円を買いたいちゅうてるでって言うたら、そんなら、先に社長さんの口座からインターネット・バンキング・システムを使って、送金してくれって言われましたんや。そうしたら、入金を確認して、その日のうちに円を持って行くって言われたんで、そう社長さんに伝えましたんや。
社長さんな、インターネットを使って送金したことがないもんで、ワテが側についておって、ID番号や、パスワードを入れて、いや、パスワード入れる時はワテは側を離れましたけどな、そうやって操作したんやけど、送金が出来んかったんですわ。
なんでかちゅうとね、インターネットで送金するには、パスワードの他に携帯番号登録を銀行に行って済ませておかなアカンかったんですわ。
けど、社長さん、その手続きしてませんでしたんや。
そんで、結局、小切手で支払うことになって、これもワテが小切手に支払い先と金額を書いてあげましたんやで。
そして、その小切手を金曜日にワテが銀行に持っていって、マネーチェンジャーが入金を確認してから、次の日の土曜日に円を渡すちゅうことになりましたんや。
長い話やけど、結局金曜日には円が貰えんで、土曜日にマネーチェンジャーのお店にワテと社長さんとで取りに行くことになりましたんや。
そんで、土曜日はお買い物と両替の二つのことをすることになりましたんや。
けど、ワテは車の点検が土曜日の夕方に終わるんで、社長さんとご一緒したあとに、車を取りに行かなあきませんでしたけどな。
そんで、インド綿のお店には、オートの後ろに社長さんと二人で座っていきましたんや。
社長さんな、朝から、うるさいんですわ。
社長さん :おいおい、このオートは旧式の料金メーターですよ。
このメーターは金額を表すのですか、距離を表すのですか
ワテ :これは距離を表しまっせ。下の二桁がメートルで、それからが左の数字がキロです。
社長さん:そうですか、私はてっきり、金額を表すのかと思っていました。なぜなら、降りる時に、
いつも運転手さんがメーターを見てから、胸ポケットから取り出す表を見るので、メーターには旧料金が表示されていて、表で旧料金と新料金の換算をしているのかと思っていました。
ワテ :ちゃいまんがな。あのー、運転手さん、料金表を見せてやって。
ちゅうて、ワテは社長さんに料金表をお見せしたんですわ。
社長さんな、そうやったんかって、料金表を見ながら関心してはりましたわ。
そして、背中をかがめて、オートの中から町を眺めて、あの古い建物は何や、この匂いは何や、あの人だかりは何やって聞きはりますのや。
そのたんびに、あれは、プネで一番古いアパートです。あれはオフィスです。この匂いは近くに魚市場があるからですって説明せなあきませんのや。
そんで、野良犬狩りの車があったんで、あれは野良犬狩りをしてるんですちゅうと、犬はどうなるのや、どこかの町に捨てるのか、ドッグショップに引き取ってもらうんかって聞かはりますんで、ちゃいます、殺して処分するんですって答えましたわ。
そんで、やっと、インド綿のお店の近くに着いて、社長さんがオートの代金170ルピーを払ってくれて、オートを降りて、お店に向かいましたんや。社長さんな、また、おしゃべりですわ。
ここは何回か来たことのあるとこやないか、あの古い市場があるとこやろ、あの大きな建物がそうやろ。この通りは前は、あっちから歩いて来たことあるで、この店は確か、お客さんの結婚祝いの食器を買いにきたとこやって言いながら歩かはるんでっせ。
そして、時々カメラを取り出しては、写真を撮りなはるんでっせ。
お店では、社長さんな、買うもんを決めておられんかったんか、生地もんと仕立てもんの両方を買ってはりましたわ。
お店の人にこれもエエですなって言われると、お値段を聞いて、安いとすぐに二つ下さいって言わはるんですわ。そんな主体性のない買い物する人おるんやろか。
社長さんな、今度の帰国でホームタウンに、お父さんのお墓参りに行くんやって、そんでお兄さんのお嫁さんや、妹さんや、姪っ子さんや甥っ子とさんのお嫁さんや、女性陣がようけおられるんやて。
それに、奥さんの方にも、ご兄弟のお嫁さんや姪っ子さんがおられるんで、なんぼ買って行ってもエエんやって言われましたわ。
この前、買ったのがまだ残っておるちゅうて言ってはったのに、おかしな話とは思いましたが、ワテは、そうでっか、そりゃ大変ですなって答えましたわ。
きっと、そうやないと思いまっせ。値段を聞いて安いもんで、あれこれ買いとうなったんとちゃいまっか。いつも、こうゆうお店でお勘定する時は、ワテが最後い値切る役をするんですけどな、そのお店、卸売もしてましてな、もともと安い値段やから、負けらんって言い切りましたわ。でも、ちょびっと負けてくれましたわ。
そうやろうな、あんなんを、町の真ん中のMGロードで買うたら、倍近い値段になると思いますわ。
そんで、インド綿のお店を出て、またオートに乗ってマネーチェンジャーの店へ移動したんですわ。
100ルピーなら行くちゅうFixed Priceでしたわ。そやから、メーターはFOR HIREのままでしたんのや。
そんで、マネーチェンジャーについて、熱いチャイを出してもらって、それを飲んで、無事両替して、社長さんのアパートに戻ることになりましたんや。その時はもう12時近くでしたんや。
そしたら、社長さんが、朝飯を食べとらん、お腹が空いたって言わはったんで、いつもMGロードにある行列のできるワダパウ(コロッケパン)の店でそれを4個買って持ち帰ることにしましたんや。
社長さんとワテと二個づつですわ。社長さんな、チリーをぎょうさんつけてもらって来いって、オートの中からワテに言わはりましたわ。
そんで、その日はワテは運転手やのうて、お客様ですがな。後ろの客席に座ってまんのや。
そんで、オートの運転手さんにあそこを通れ、ここを曲がれって指示しながら、帰りましたたんや。
あれは、気持ちのエエもんでんな。
そして、近道しようと、ある路地に入ったら、そこは軍人さんの住宅地やったもんで、通ったらアカンて言われてUターンしたりしましたわ。そんでも、無事、社長さんをアパートにお送りしましたわ。
社長さんな、帰りがけに、オートの代金と今日のお礼やってお金をくれましたわ。
ワテ、アカン、アカンで言いましたけど、社長さんが、せっかくの休みを一緒に行ってくれてありがとう、ほんの心積もりやって言わはるんで、三回断ったけど四回目には、ありがとうございますって受け取りましたわ。そんな、先週の土曜日の午前でしたわ。
社長さんも、日本に行っておらへんし、ワテもこれから、休暇取ってコーチンへ行かなアカンので、これで失礼しまっさ。ほな、さいなら。
丹羽慎吾