シンゴ旅日記インド編(92)ワテは運転手 ボケ防止の巻

ワテは運転手でんねん。ご主人は日本人の社長さんですわ。

そして、この人が結構、笑えるお方なんですわ。

つい最近のことですわ、アパートの近くの、ちっこいショップでタマゴを買わはったんですって、そしたら、モールのタマゴみたいに洗って売っておったいうて感心してはりますのや。

そりゃ、インドではタマゴは汚れたまんま売るのが普通ですわ。

なんでかちゅうとな、タマゴを洗うときに割ってしまうからやないかと思いますわ。

聞いた話ですけど、日本人って、生のタマゴをご飯に混ぜて食べるそうでんな。

恐ろしい人たちですな。そんな国って日本だけとちゃいまんのか。

それに、それを手で食べたら手がべチャべチャにならへんのでっか。

インドでは、生のタマゴを食べるってこと、絶対に出来まへんで。ああ、気色ワルー。

ちゅうか、日本人は何でも生で食べるそうでんな。

タマゴだけやのうて、肉や魚も生で食べるそうやないですか。

社長さんな、日本人が肉を食べるようになったんは、150年くらい前に日本の政府が外国に

DoorをOpenしてからやって言うてはりましたが、ホンマでっか。

ホンマは、その前から、生の肉を食べてたんとちゃいまっか。

なんせ聞いた話やけど、日本のお寺の坊さんて、頭に毛ぇーを生やしてて、結婚してて、奥さんや子供さんがおって、お酒飲んでも、肉食べてもよろしいそうでんな。

社長さん、言ってはりましたで、タイのお坊さんが、日本の坊さんの生活を知ったら、たまげるやろなって。

そんで、社長さんのことや、この前な、日本で言う『おじや』ちゅうんですか、イタリア料理のリゾット見たいなもんをこさえるけど、タマゴを先に入れるべきか、ご飯を先に入れるべきか悩みはったそうですわ。そんで、ワテに、どっちを先に入れたらエエんやろかって聞かはりましたんや。

ワテ、答えましたわ。そんなん、タマゴとご飯と一緒に入れたらどないですかって。

あの時、社長さん、なるほどって言ってはりましたわ。

なんでも、日本で焼き飯をこさえる時に、ご飯にタマゴ入れて混ぜてから、炒める方法があるらしいんやって。けど、どんなタマゴ・オジヤになったんやろか。

この社長さんな、最近ボケが多くなりましたんや。

まあ、来はったときから、ボケ顔やなぁ、とは思うてましたんやけどね。

朝、お迎えに行く時は、着く前に社長さんの携帯に電話入れて、もうちょっとで着きまっせちゅうて連絡しますんや。

そうしますとな、車がアパートに着く頃に社長さんが、4階からリフトで玄関に降りて来てはって、車で着くワテらを待ってるちゅう寸法ですわ。

でも、この前な、アパートの守衛さんのおるとこを通った時は、社長さんがすでに玄関口に突っ立ってワテらをまってるんが見えたんやけど、敷地内をぐるっと回って玄関に着いたら、ご本人さんがいませんのや。そして、ちょっと待ってましたらな、リフトが開いて社長さんが出て来はったんですわ。どうしたんですかって聞きますと、ガスの火を止めたんかな、電気切ったかな、玄関のドアを閉めたんかなと気になったんで、降りてからまた、4階に上がって行って、確認してきたんやて。

社長さんな、ガスを点けっぱなしで寝たことが二回あるんやて。

なんか焦げ臭いちゅうて目をさましたら鍋が真っ黒けやったそうですわ。

そのうちに、あのアパートは爆発するんとちゃいまっか。

 

この前はな、会社から帰ってのことですわ。

会社が終わって社長さんをアパートで降ろして、さあ次に、若いお二人さんをアパートへと向かってましたんや。そうしたら、社長さんから、戻って来てくれちゅう電話かかってきましたんや。

Uターンですがな。そして、社長さんのアパートに着いて、社長さんが乗り込んで来て、『二人をアパートに送ってから会社に行ってくれ』って言わはるんですわ。

なんでも、アパートの玄関の鍵を部屋の中に忘れたんで、会社に置いてあるスペア・キィーを取りに行くちゅうわけですわ。ワテの家な、日本人スタッフお二人のアパートの近くですねん。

結局、お二人さんを送って行って、また会社に戻ってから社長さんを送り届けて、車を日本人スタッフのアパートに置いて、バイクで自分の家に戻りましたんや。甥っ子と一緒に食事しようと約束してましたんやが、もう寝てましたわ。しょうがおませんですわ。でも、残業時間をキッチリつけさせてもらいましたわ。

 

社長さんのボケね、特に朝が多いみたいなんでっせ。

ある朝ですわ、営業マンがコラプールちゅう町に行ったときにワテが運転して行って、ワテも一泊しましたんや。

ちゃんと出発する日の朝の打合せで、ワテがみんなに発表しとるんでっせ。

そやのに、翌朝ですわ、コラプールのホテルに居るワテの携帯に社長さんから電話が入って来たんですわ。

『事務所の鍵を持っている庶務が、今朝になって、急に休暇を取りました。スペアキィーを持っている営業が出張でいません。庶務の家に鍵をもらいに行くので、今朝は早く迎えにください』って言ってまんのや。ワテがその営業マンとコラプールに来てるちゅうのにでっせ。

そんで、ワテはコラプールにいまっせちゅうと、社長さん『ああ、そうやった』かですわ。

結局、もうひとつの鍵は出張に来てた営業マンが、事務所に残るスタッフにちゃんと渡して置いたんで問題なかったんやけどね。

 

社長さんはあれやろか、朝起きると仕事のことばっかり考えてはるんやろか。

それとも、頭がスタートするのに時間がかかるんやろか。きっと古い機械と一緒なんやろな。

社長さんな、ご自分のボケを気にしてはるのか知らんけど、なんか日記書いてはるらしいでっせ。

そんで、そのネタ集めるのが好きなんですわ。

肩掛けカバンのフックに小型カメラのケースをくっつけて、歩いてまんのやで。

 

この前は大変でしたで。

プネの近くの山の中腹に有名なヴィシュヌ神のお寺があって、年に一回大勢の人がお参りするんですわ。そりゃあ、めちゃくちゃ仰山の人たちでっせ。

巡礼ちゅうんですか、行列ちゅうんですか、行進ちゅうんですか、それらが『プネに入った、町を通った、お寺に着いた』って三日掛かりで、写真入りで新聞の一面に載るんでっせ。そんで、その朝のことですわ。

日本人スタッフお二人さんを乗せ、社長さんを迎えに行って、アパートから本道に出ようとしたら、通行止めですわ。いつもは競馬場のそばやもんで、そのお馬さんのお通りで止められることは毎朝おまんのやけど。

その日は道路に通行止めの柵があって、それ以上行けんかったんですわ。

なんのこっちゃいうたら巡礼のコースに当っとんたんですわ。

去年はおなじように行列はあったけど、通行止めには、ならんかったと思うけどなあ。

そやから、今回は回り道せなアカンのですわ。

そんで、道を曲がってちょっと行ったら、また、ストップですわ。

ワテらの通る道が巡礼さんの行進する道路と交差するんで、車が列をなして止まってるんですわ。

こりゃ、当分、動けんなと思ってましたらな、社長さん、すぐにドア開けて降りて、行列に向かって歩いて行きましたわ。

残ったお二人さんも社長さんに続きましたわ。

行列は延々と続いてましたで。

そんで、ワテらの車が通れるように、お巡りさんが行列を止めては、車を横切らせるんやけど、時間がかかりまんのや。
社長さんと日本人のお二人さんは、もう写真撮って、撮って、撮りまくってましたで。
そんなに珍しいんやろか。

珍しいちゅうというとな、社長さん、始めて来はった時なんか、ウシが歩いとる、ラクダがおるって言わはって、車の窓開けて、写真ばっか撮らはったんでっせ。
そして、そのうちに動物ばかりでのうて、町を一緒に歩いておっても、マンホールがコンクリートや、電柱がH鋼でできとるちゅうて、えろう感動しはって、これまた写真を撮りまくってはりましたわ。
聞いた話ですけど、日本ではマンホールは鋳物製で、電柱はコンクリート製らしいそうでんな。
そんなん、インドでマンホールが鋳物製やったら、すぐに誰かに持ってかれて、売られてしまいますわ。

そして、木ですわ。プネってな、一年中おんなじような気候やけど、やっぱり違うんですわ。
社長さんな、気にいってる木が町の何箇所かにありますんや。これしゃれやおまへんで。
そして、時々同じ位置から写真撮ってはりまんのや。
花が咲いた、葉っぱだけになった。枝だけやちゅうて、その時々に感心してはりまんのや。
それに、最初のころは、ワテに、あの花はなんちゅうのや、この木はなんちゅうのやて聞かはりましたけどな、ワテ、さっぱりでんのや、知りませんがな。木や花の名前言うてもしりませんがな。
みんなかって言うてまっせ、黄色い花とか、白い花が咲く木ちゅうくらいなもんでっせ。
そんで、社長さん、最近は花を見ても、木を見ても、なんも聞いてこんようになりましたわ。


でも、ワテな、食いもんの名前は何でも知ってまんのや。
町の食堂に社長さんを連れて行っても何でも答えられますんや。
社長さんがインドに来はったころに、豆やお米を売ってるお店に連れて行ったんでっせ。
社長さん、喜んで写真撮ってはりましたわ。そんなに変わってまっか、インドの豆やお米は。
でも、お米には、ジャポニカ米、インディカ米ちゅうて、日本とインドの名前がついてまんのやね。
そやけど米ちゅう字はアメリカのことやそうですな。
アメリカの人は、お米を食べてはらへんのにね。麦ってしたらどうでっか。

面倒やね、そんなら、中国語では日米、印米ちゅうたら日本のお米や、インドのお米のことやのうて日本とアメリカ、インドとアメリカの国のことを言うんですか。へぇー。

えっ、中国語ではアメリカを美国と書くんですか。へぇー。

ほな、大統領のオバマは何て書くんですか。小浜ですか。えっ、奥巴馬ちゅうんですか。へぇー。

そんで、オバマ大統領は結構神経質な人で、発音が実際に近い欧巴馬を使って欲しいと言ってたらしいちゅうんですか。けど、中国は欧という字にヨーロッパの意味があるからやめたんでっか。

オバマ大統領はホワイトハウスを中国語で白宮と呼ぶんも、アメリカには宮殿がないからちゅうて白屋にしてくれって注文を中国側につけたんですってか。へぇー。

えっ、欧巴馬ちゅうたら、中国では日本のオバサンにあたる欧巴(おうば)桑(さん)ちゅうのが一部で流行っておるんで、欧巴馬は良くないイメージやちゅうとるんですって。へぇー。

 

そやそや、お米の話やけど、世界中ではインディカ米の方がジャポニカ米の4倍くらいようけ作られてまんのやで。ジャポニカ米が作られてるんのは日本だけやそうでっせ。

これも聞いた話やけど、日本のお米って、食べるとおなかが張るらしいでんな。

それにカレーには合わんそうやわ。えっ、フライドライスにも合わんのでっか。

それに日本ではご飯を炊く専用の鍋があるそうでんな、炊飯器ちゅうんですか。

インドでも最近な、パナソニックちゅう会社がインドのお米用のその鍋を売ってまんのや。日本の人がインドのお米をどうやったら炊飯器で炊けるか、いろいろ勉強しはったそうですわ。今年は100万台売れるそうでっせ。インドで半分のシェアーをもってるんやて。

ワテんとこは、ご飯は圧力釜で煮まっせ。圧力釜な、これ便利もんなんですわ。

ピューと鳴って、蒸気が出てきて、その音が止んで、またピューって鳴りますやろ、その鳴る回数によって早(はよ)う煮えるもんと、時間がかかるもんとを決めますのや。

ご飯なんかは、ピューが二回ですわ。ダルカレー、これは豆のカレーですけどな、4回ですわ。

圧力釜な、野菜に肉と、マサラと入れてフタして火ぃー点けるだけですやろ。簡単ですわ。

聞いた話やけど、日本の人って、ご飯の焦げたノンをおいしい、おいしいって食べるそうでんな。

ワテも、一回、おかずぎょうさん作らなあかん時があって、ご飯を焦がしたことありますんや。

しまった思うて、食べてみたけど、焦げ臭いばっかりで、おいしなかってでっせ。

やっぱり日本人って変わってまんな。

社長さん、言ってましたで、『私は単身赴任です。嫁さんも日本で単身生活です。お互いにその単身の生活を楽しんでいるのです。』って。ホンマやろか。

聞いた話やけど、日本のProverbに『男やもめにウジがわき、女やもめに花が咲く』ちゅうのがあるそうでんな。こんなん、英語におませんで。日本の文化ちゅうものですかいな。

なんや、今日はオチがありませんでしたな。かんにんやで。ほな、さいなら。

丹羽慎吾

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です