夕映え

 

雪溶けの雫が
テラスの壁を伝うのを
見つめている

目の粗い日よけ布
天井から下がる陶器のランプ
ここに座っている

テーブルクロスの縞の数
カットグラスに映る顔のゆがみ
ここに座らされている

わずかばかりの呟きを
風音にまぎらし
後へ後へと送り流す点景

いまを深めること
どのように?

不可能に近い困難と思う

耳の奥にいまも響く
すこしかすれて
けれどどこまでも純粋な

あのオーボエの
カンティレーナが
昇って行くのはこの空ではない

もっと別な
わたしには
まだ現れない冬の空

雪溶けの雫が
テラスの壁を伝う
夕映えが薄紅に染める

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。
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