がんを考える16~ソーシャルワーカー

医療ソーシャルワーカー
妻が再入院してしばらくしたときに、看護師さんからソーシャルワーカーに会ってみませんかと言われた。聞くと、医療に関する困りごとがある場合などにいろいろと相談できるる存在だという。妻は、ありがたいと思ってアポイントとり、私に同席を求めた。

ソーシャルワーカーという名称は初めて聞く言葉で、どういう資格をもって、どんな仕事をしていて、患者にどのように役に立つのか全く知りませんでした。妻が聞いた簡単な説明では、この病院を退院した後、自宅近くの病院を紹介したり、治療にかかる費用のことについての相談などをしてくれるようだとのことだった。

しかし、私が最初にこの話を聞いたときは、正直少し疑念を持った。というのも、この病院は、国内の遠方からのみならず海外からの入院希望者も大勢待機している。受付に、ロシア語と韓国語での案内もあるところを見ると、そのような事情は容易に見て取れる。ということは、手術を終えた患者にはできるだけ速やかに退院してもらう必要があるはずだ。で、他の病院を紹介することで、効率的な病院経営事務の一端を担っているのではないかと思ったのだ。

ソーシャルワーカーは、病院に雇用されているのか、それとも社会福祉事務所のようなところから派遣されているのか、などいくつか疑問があった。最初の入院の時であれば私もこのような考え方はしなかったと思うが、妻の予後が悪く緊急で再入院したことで少々気が立っており、病院の経営効率と患者の完全治療という二律背反の状態が気になった。

当病院では、一人のがん患者の治療に、医師、看護師、薬剤師、検査技師などのさまざまな専門職がチームとなって取り組んでいるが、チームの主役はあくまでも患者であるとしている。そうであるなら、手術が成功したからと言って早めの退院を勧めるようなことがもしあったら、徹底的に抵抗してやろうと思いかけていた。

そして、面談の時、この質問をソーシャルワーカーに直接ぶつけてみたが、否定はしなかった。退院の日程を決める権限はないので何とも言えないという答えだった。少々穿った見方かも知れず申し訳ないが、患者の立場からすると少々考えさせられる。十分に治療をしてもらって術後の憂いのない状態で退院したいと思うのが常である。

ただ、後に、冷静になって考えてみると、あまりにも自分たちだけのことばかり考えているようで、少し反省もした。病院も経営者の立場からすると、そのような効率経営が必要だろうことは理解できる。しかも、「患者のための経営」という最大の目的があり、その「患者」は、「今の患者」のみならずこれから入院する予定の「患者予備群」のことも平等に考えているとすれば、これ以上無理は言えなくなる。

ソーシャルワーカーの話し方や印象にもよるが、純粋に退院後のことを親切に考えてくれていたのであれば、申し訳なく思う。いずれにしても今まで無知であったソーシャルワーカーについてこの際少し調べてみようと思った。

保健医療分野における医療ソーシャル・ワーカーとは、主に病院において「疾病を有する患者等が、地域や家庭において自立した生活を送ることができるよう、社会福祉の立場から、患者や家族の抱える心理的・社会的な問題の解決・調整を援助し、社会復帰の促進を図る」専門職をいうそうだ。

医療ソーシャルワーカーとして勤務するための資格は無いが、多くの病院で社会福祉士を保持することを条件としている場合が多いらしく、この病院でも社会福祉士の資格を採用条件としているとのことだったので、まず少しは信頼できるのかなと思った。

また、『医療ソーシャルワーカー業務指針』が国によって定められ、「社会福祉の立場から専門的援助を行うこと」や「業務の範囲」などが定められていることもわかった。医療ソーシャルワーカーは、医師、看護師、薬剤師、栄養士などと同じく患者の病気を治療するための医療チームの一員なのである。

問題点

現在、医療ソーシャルワーカーは、量的、質的な問題点を抱えている。量的問題点は、人材不足である。現在、医療ソーシャルワーカーは、全国に1万1千人ほどしかおらず、100床に0.5人、診療所1件当たり0人という割合である。現状では、医療保険上の診療報酬扱いにならないため、人件費の補償がなく、意識の高い機関にしか雇用がない。よって、全国各地に医療ソーシャルワーカーがいるわけではない。

質的問題点は、養成環境が整っていないため、人材の力量にかなりのばらつきが出ているということである。

いずれにしても、患者や家族の様々な不安について相談に乗ってくれるので、ありがたい存在だと思う。そして、ソーシャルワーカーをおいているかいないかが、一流の病院かどうか判定する目安になるのかも知れない。

この件は、私の無知からくる考えで行動したことで、他人に語るには少々恥ずかしい話だ。しかし、必死で闘病している間に陥ったことなので、敢えて書くことにしました。もし、所見などある方がおられるようなら教えていただきたいと思います。

~つづく~

蓬城 新

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