新加坡回想録(6)シンガポールの教育制度

シンガポールの教育制度は、日本のそれと似ているところもありますが、実は全く違う大きな特徴がります。通常6歳になると6年制の小学校に入学し、その後4年制の中学校に進みます。しかし、小学校の段階ですでに選別とエリート教育がスタートするのです。すなわち4年の終わりに、全員が能力クラス分けの試験を受け、中学に進めるコースと、卒業後は職業訓練学校に進むかもしくは就職するコースに分けられ、この時点で後者のグループは進学の道が閉ざされてしまいます。

小学校の終わりに、前者コースの生徒は、「小学校卒業試験」を受け、80%が合格して中学に進学しますが、残りの20%は職業訓練学校に行くか就職せざるを得ません。中学を終了すると「GCE”O”レベル)」(普通水準教育終了証)と呼ばれる卒業試験を受けますが、これに合格した生徒のうち優秀な生徒(上位10%)は「ジュニア・カレッジ」と呼ばれる二年制の高校に進みエリート教育を受けます。その次のランクの生徒が、「プリユニバーシティ」と呼ばれる3年制の高校に、残りが「ポリテクニック」(3~4年)と呼ばれる高等技術学校に入学することになります。

最後に高校を卒業すると「GCE”A”レベル」(上級水準教育終了証)と呼ばれる卒業試験があり、優秀なものがシンガポール国立大学か南洋工科大学に進学し、次のレベルはポリテクに進みなおします。大学は3年制ですが、優秀な10%の学生は、この後「オーナーズコース」と呼ばれる1年制コースに進みます。

他方、国家奨学金受給生は、まずジュニア・カレッジの1年目末の成績をもとに優秀な生徒がリストアップされ、2年目の成績を見て最終的に決められます。そして、将来エリート官僚となる100名強の高校生は、高校卒業後、国内ではなく欧米の有名大学に送り込まれます。

これがシンガポールの教育制度ですが、同じ年代でも、エリート学生は、小学校6年、中学4年、高校2年、大学4年の道を進み、能力なしと判断された生徒は小学校6年間で終えて、労働市場に放り出されてしまいます。この教育制度の特徴は、試験の成績によって義務教育段階からはっきりとコース分けすること、選別試験に漏れた生徒には復活の道がないことです。浪人とか、もう一度試験を受けるとかの再挑戦の道はありません。

そして、徹底的に振り分けられた優秀な者が、政府(人民行動党)に吸収され国の統治に関わっていきます。そのこと自体は悪いことではないと思いますが、優秀な若者が民間で活躍するチャンスが少なくなることはいかがなものでしょうか。ペーパーテストの成績が悪かった生徒が成長して会社を興し大成功をおさめるケースはたくさんあるので、さしたる心配は不要なのでしょうか。

ここまで読んだ読者の中には、きっと、「厳しすぎる」とか、「人間には大器晩成型やペーパーテストでは計れない豊かな才能の持った人々もいるのに、このような教育システムはそれを伸ばせないだけでなく、その芽を摘み取ることになるのでは」と思う人が多くおられると思います。

このような教育制度やエリート的能力観に対し批判的なシンガポール国民も大勢います。しかし、実態は政府の力が強過ぎてどうしようもないのが実情です。独立以来、人民行動党の一党独裁体制が続いていることで、資本主義国家で最も社会主義国家に近いと言われるゆえんです。

(西 敏)

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です