新加坡回想録(61))カマル・クチル

シンガポールの国土面積は2017年現在で、721.5㎢(平方キロメートル)です 。東京都区内の面積2019年現在、627.57)より少し広いだけで国としてはいかに小さいかがわかります。世はグローバルの時代と言われて久しいですが、国内資源を持たないシンガポールは独立以来、貿易・金融立国としてその地位を確立してきました。

ここでの駐在の仕事のメインは、やはり金融や世界中の国々との貿易が主体となります。穀物・食品を担当していた私は、特に近隣の国へ出かけるのが常でした。隣国インドネシアの首都ジャカルタへ出かけた時に聞いたちょっと面白いエピソードを紹介しましょう。

某商社の若手社員であるA君は、仕事もできて性格も明るい将来を嘱望される存在でした。入社数年目で担当の仕事も率なくこなしていたA君に、ある日、海外赴任の命令が下されました。駐在先はインドネシアの首都ジャカルタ。願ってもない話にA君は、事前の語学研修にも張り切って望み、短期間の間にみるみる上達していきました。

さて、ジャカルタ支店に赴任したA君は、新たに覚えたインドネシア語が通じるのがうれしくてたまりません。赴任後すぐに現地の人とのコミュニケーションがうまくとれたのですっかり自信をつけ、順調に仕事をこなしていきました。ある日、日本から出張してきた得意先を夕食に案内することになりました。いつも贔屓にしているレストランに電話して席を予約せねばなりません。今回の得意先は3名で比較的少人数だったので、小さな個室を予約しようと受話器をとりました。

A君は、電話口で大きな声で「カマル・クチル」を頼みました。インドネシア語で、「カマル」は「部屋」、「クチル」は「小さい、狭い」です。日本語と違い、修飾語である形容詞は後にくるのでこのような順序になります。みなさんご存知の「ナシ・ゴレン」も同様です。赴任前によく勉強したA君は、このへんの文法もよく承知しており、自信を持って予約したはずだったのですが・・・。

インドネシア語は、比較的習得しやすい言語です。何故なら、言葉の数が少なく覚える単語が少なくて済むからです。その代わりに、1つの言葉で複数の意味を表すようになっています。例えば、皆さんもよくご存知の「JALAN(ジャラン)」という言葉は、「道」という名詞であり、「行く」という動詞にもなります。二つ重ねて「JALAN JALAN」といえば「散歩する」になります。また、動詞の時制変化はありません。「食べる」も「食べた」も「makan」でOKです。

さて、レストランに予約の電話を入れたA君、どうなったのでしょうか? 電話を受けた途端、レストランではみんな吹き出して爆笑の渦となりました。何と、「カマル・クチル」とは「トイレ」のことだったのです!A君は、「トイレ」を予約したのでした。A君の耳は真っ赤になったのはいうまでもありません。「小さな部屋」で「トイレ」、聞いてみると納得ですが、知らないということは、恐ろしくもあり、可笑しいことですね!

P.S. それでは、「小さな部屋」はどういえばいいのでしょう?「kamar yang kecil」(カマル・ヤン・クチル)です。

(西  敏)

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