吉原和文
十男の父「星影のワルツ」
亡父の唯一の持ち歌は「星影のワルツ」だった。家族は下手なこぶしをきかされた。だが晩年は時々歌う目から涙が出始めた。ボクは「老人特有の涙目症状だろう」と思っていた。 父が10歳時に両親が離婚した。実母は実家に帰り、ほどなく […]
十男63歳 十人の子を養う親はあれども一人の親を養う子はまれなり
いわゆる名言、金言と言われる言葉をボクは日記や手帳によくメモるのだが、いつの日か忘れ去る。身の丈に合わないのか心動く器量がないのか。そんなボクでも一つ忘れられない言葉がある。 10人兄弟の7人を喪って六男、九男、十男のボ […]
十男60歳 葬儀1か月後、兄ちゃんがまた死んだ
四男の死(享年73)から1か月後、76歳の二男が亡くなった。晩年は脳梗塞から色々な病気を併発した。弟の死を知らされ病床で号泣した。 二男だが長男が夭逝したためお鉢が回って家長・当主に抜擢された。勉強が嫌いではないが、苦手 […]
十男60歳 兄ちゃんが死んだ
四男の兄が亡くなった。兄弟が多ければ自ずと葬儀も多いと思われるだろうが、一番下の十男のボクには悲しみは“ひと10倍”だ。 目を覚ますと枕元に真新しい野球のグローブがある。ボクは風邪で小学校を休んでいた午後。「兄さんからだ […]
十男34歳 ボクの子供は男、男、また男
11人きょうだいで長女誕生以来 男ばかり10人兄弟の末っ子のボクだが、結婚後、自分の子供は「一人くらい女の子が生まれるだろう」と思っていた。甘かった。 25歳時に長男、27歳で二男、そして34歳時に三男が生まれた。上の兄 […]
十男17歳 高2 “恋人”を奪われた
「女の子の人気投票」が高校2年時、男子の保健体育の自習時間に行われた。クラスの塩道哲也が『お気に入りの女子』総選挙を提案したのだ。塩道は「あしたのジョー」の力石徹のような奴で顔も体も声もデカい、押しもある。クラスはすぐま […]
十男14歳日記 昭和38年8月15~18日
誤字・意味不明、理路不整然日記の続き。中学2年の8月。五十余年後の今「あれから随分成長した」という証(あかし)がないのも事実(日記は原文のまま)。 8月15日 木 ☼ 昭和二十一年八月の今日十五日、私達の母国 日本はポツ […]
十男14歳日記 昭和38年2月4~7日
誤字・脱字・意味不明・理路不整然、しかも下手な字。信号機もない、塾もない、家庭教師とも無縁の田舎の中学2年生の日記。公開する勇気が“恐い”。(日記は原文のまま) 2月4日 月 雪 毅兄へ手紙出す 大雪である。昼からの休 […]
十男9歳 埋葬のヤギを掘り出す!?
近所で飼っていたヤギが病死した。おじさん数人が畑に埋葬した。夕方、ボクの兄貴分・隣の兄ちゃんが弟分4人を引き連れて埋葬場にこっそり集まった。「人間は死んだら骨になると聞いた。ヤギは1日でどう変わるかなあ」と小学3年生のボ […]
十男8歳 人魂(ひとだま)(火の玉)を見た
隣家のおじさん(主人)は物知り博士だった。でも病気がちで働いているのを見たことがない。天気のいい日は一人、縁側で日向ぼっこ。眼鏡、痩せて、顔は青白く、芥川龍之介という人に似ていた。 いつもラジオを聞いていた。訳の分からな […]
十男の父 🈡 農業・公人・親 3つの顔
11人の子の父としての顔、農家の跡継ぎとしての顔、公人としての顔、など様々な顔が父にはある。父の経歴は以下の通り(「地方自治人事調査会」より主に抜粋)。 尋常高等小学校14歳で卒業、家業の農業に就く。18歳で結婚後に入隊 […]
十男の母🈡 ほろ苦クリスマス
私が小1、7歳の時のクリスマスの夜のことだ。夕食後、2歳上の兄と口論していた。 「サンタクロースがいると思ってるのか」 「いるよーだ。サンタは絶対いる」 「どこにいるんだよ」 「そりゃ、今はいないけど……とにかくサンタは […]
十男の母② 高齢母の授業参観日
ボクは母が39歳の時の子ども。当時では高齢出産だった。友達の母親達は20~30代で母にとっては自分の子供世代だ。授業参観では母は今でいうアラフィフ、一生懸命にお化粧していたように思う。子ども心にも「きょうのお母ちゃん、朝 […]
十男の父②子だくさんの原点
11人の子の親だから、ボクの父はさぞ筋骨隆々、逞しく精悍な男!さにあらず、ごく普通の農家の親父だ。ただちょっと寂しいおっさんずライフだ。 明治末の農家の長男だ。両親(ボクの祖父母)は男2人を生んだ後、離縁した。子供は男親 […]
十男の母①パンツのゴム通し
ボクが高校生の時、実家には山積みの下着パンツとゴムがあった。母の内職の材料で下着のゴム通しだ。報酬は定かでないが「1枚で1円」だったか。「あまりカネにはならんが、少しでも、ね」と母は下宿先から帰省したボクに笑って言った。 […]
十男、憧れのマドンナと結婚
農家の十男で末っ子の新米記者は24歳で結婚した。相手は周囲の独身仲間たち憧れの的の女性(22)だった!恋愛でもお見合いでもない。イケメンどころかルックス十人並みでないボクが高嶺の花と結婚できたのは……。 古里の父親とある […]
十男記者に社会の洗礼
「末っ子十男」のボクは記者研修を終え、幹部の前で配属希望先を聞かれた。同僚ほとんどが「社会部」「経済部」「運動部」など取材部門を希望していたがボクは「整理部」と答えた。高校時代に新聞部で少し新聞というものをかじっていたの […]
十男 新聞記者になる
11人きょうだいの末っ子「十男」のボクは高校生時、公務員などを希望する就職コースのクラスにいた。部活動は新聞部。年に3~4回発行する高校新聞を取材、制作していた。新聞を作る楽しさや読者(高校生)の反応に新聞作りが非常に […]
末っ子十男 命名の怪
私は農家の十男。きょうだい全11人の末っ子。長女が生まれて以来、男が十人、私はそのトリ。今なら「テレビ番組の大家族特番」だ。姉兄とは母親父親ほど年齢が離れており、すでに上8人は黄泉に旅立った。 進学時の申請書や会話の時に […]